童夢創業者・林みのる氏が大いに語る――日本レーシングカー産業への提言:【再録】ITmedia Virtual EXPO 2015 春(5/5 ページ)
2015年2月に開催したバーチャル展示会「ITmedia Virtual EXPO 2015 春」では、レーシングカーのコンストラクターである童夢の創業者・林みのる氏へのインタビュー講演をお送りした。林氏が第一線からの引退時期として公言している70歳の誕生日(2015年7月16日)を記念し、このインタビューの模様を記事化した。
FIA-F4シャシーを海外に輸出できる?
MONOist ル・マンへの挑戦は続けていきますか。
林氏 ル・マンはね、最初にお話したように、この国でそのわれわれが200人弱の所帯でいろいろやってきて、利益を全てつぎ込んでやってきても、届かないんですよ。ル・マンていうのを1回見られたら分かると思いますけど、アウディなんてホスピタリティブースだけで数億円かけて、ホテルまで作って。関係者と来客のための。ピットでクルマが入ってくるでしょ。われわれの場合こう、モノをかましてジャッキアップしていったんガレージに入れるわけです。そこで、もっと上げて下に入って整備するわけ。その時間が惜しいと。ほぼ10秒単位の話、24時間の中の。だけどピットの中に穴を掘るんです、彼らは。そこにクルマが入ったら既に(穴に)人が入って、整備して、ヒュンと出て行く。ル・マンのサーキットもそのまま変えられままだと大変なんだけど、ちゃんと埋め戻してコンクリートはって帰るんですよ。権利金を払って、自分のピットに全部穴を開けていく。そこまでやって勝ちに行くんですよ彼らは。
ウチのレースの総額ってね、多分穴掘って戻すぐらいの費用しかない(笑)。それが証拠にね、トヨタが今走ってますけど、かなりいいとこまでいってますけど、トヨタはトヨタなりに金かけてますから、あそこまでは行くんですよ。まともな技術を持っていればね。ということはイコール、われわれの規模ではね、やり続けてもいつまでたっても一人前にはなりませんよということなんでね。そろそろケリをつけないといけないなとは思っています。
MONOist 今後の日本のレーシングカー産業に対する期待をお聞かせください。
FIA-F4というのが一番驚異的な部分は、キャッププライスという部分がありましてそれがシャーシ自体が3万3000ユーロって規定されてるんですよ。それ以上で売ってはいけませんという。世界中のコンストラクターがそんなもんできるか! っていう話だったんだけど、やっぱりFIAっていうのはJAFの親玉というだけあって、いいとこついてて2、3のメーカーが手を挙げたんですよ。実際に(彼らが)作り始めて、それを見過ごしてると、(日本に)入ってくるわけですよ。でも3万3000ユーロだったら、われわれがやってたJAF-F4の半分ぐらいなんでね。今までだってコスト高くて四苦八苦してるのに、絶対無理って言ってたのを、トヨタさんの支援もあって無理やりやったらね、結構コスト近づいてきたんですよね。これが唯一、今の光明なんですよ。
だからやればできるみたいな雰囲気はすごいあってね。まだまだ努力の余地はあるみたいなんで、これのコストの問題解決したら、逆にこれ作って海外に売ったら売れるんじゃないのみたいなところまで行くと、それだと日本人も突っ走るから。それの今ちょっと分かれ目見たいなところなんだけど、まぁ今のところ、いろんな人がいろんな協力をしてくれて。かなり無理してるところもあるけど。日本自動車レース工業会という参画企業60数社ぐらいあるんですけど、そこがみんな一致協力して、かなり目標値を下回るところまで来てるんですよ。だからこれがうまく回り出せば、商品価値というか産業としての構造は成立していくと思う。
MONOist FIA-F4シャシーを海外に輸出するとこまで持っていけそうですか。
林氏 いや日本のマーケットが知れてますからね。イギリスからどんどん買わされている部分を、なんとか逆転するところまで行きたかったけど、ちょっと時間切れになりました。今回もそのFIA-F4でね、ギヤボックスという部品があるんだけど、これはもうイギリスのお家芸だったんですよ。何千機買ったか分からない、日本は今まで。今度初めて戸田レーシングというところで国産化して、全くトラブルなくずっとテストを続けてます。これも作り始めたら輸入する必要のない部品なんでね。そういういろんなとこがね。
あ、そうだブレーキもね、今まで全部海外製しかダメだったんですけど、今度は日本製になってます。そういうことがね、今後大きく花開く要因になると期待はしています。
MONOist まいた種の芽が出るくらいのところまできましたか。
林氏 ん〜……。まぁ、土が盛り上がったぐらいですかね(笑)。
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