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アウディvs.トヨタ、2012年「ル・マン」から始まるハイブリッドレースカー戦争戦いはこれからだ!(1/3 ページ)

アウディの圧勝で終わった、2012年の「ル・マン24時間耐久レース」。しかし、最も注目されたのは、レース結果よりも、アウディとトヨタ自動車が投入したハイブリッドレースカーの争いであろう。両社は、それぞれの思想に基づき、異なるハイブリッド機構を導入していたのだ。

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 「なんだ、今年のル・マンもAudi(アウディ)の圧勝か……」。世界3大レースとして知られる「ル・マン24時間耐久レース(以下、ル・マン)」だが、2012年は、積年のライバルだったPeugeot(プジョー)が撤退したこともあり、アウディの独壇場になるだろうとささやかれていた。実際に、下馬評通りの結果になったわけで、面白みを感じなかった人も多かったかもしれない。しかし、だ。技術的な面から見れば、ル・マンにおけるハイブリッド戦争の火ぶたが切って落とされた記念すべき最初の年だと思えば、かなり興味深いのではなかろうか。

2012年のル・マンは、アウディの圧勝に終わった
2012年のル・マンは、アウディの圧勝に終わった(クリックで拡大) 撮影:小林稔

ハイブリッド参戦決定はトヨタから

 最初にハイブリッドレースカーでのル・マン参戦を決めたのは、トヨタ自動車(トヨタ)だ。2012年1月25日、フランスのポールリカール・サーキットにおける公式テストの際に、レースカーにハイブリッド機構を搭載することを発表。5月5日に開催される「スパ・フランコルシャン6時間耐久レース」でハイブリッドレースカー「TS030 HYBRID」をデビューさせると公言した。

 結局、プロトタイプでの事故があってスパには参戦しなかったが、トヨタが着々と「ハイブリッドレースカーでのル・マン初参戦」に向かって準備を進めるのを、アウディが指を加えて見ているはずがない。2月29日、ドイツのミュンヘン空港に隣接する「アウディ・フォーラム」での記者発表において、「R18」をベースにしたハイブリッドレースカー「R18 e-tron クワトロ」を走らせると宣言したのだ。

トヨタ自動車のハイブリッドレースカー「TS030 HYBRID」
トヨタ自動車のハイブリッドレースカー「TS030 HYBRID」(クリックで拡大) 提供:トヨタ自動車

 実は、ル・マンのレギュレーションでは、2011年からレースカーへのハイブリッド機構の搭載は可能だった。ただし、前輪または後輪のいずれかにモーターを接続してブレーキエネルギーの回生は行えるものの、モーターの駆動力を使って4輪駆動(4WD)にすることは許されていなかった。つまり後輪駆動を採用するアウディにとって、事実上前輪にモーターを搭載することができなかったのである。アウディは、モーターによる回生は、前輪で行うのが効果的だと考えていた。このため、もし前輪に回生用モーターを搭載するなら、レギュレーションに沿ってリアにも駆動用モーターを積まなければならない。しかしながら、極限までの軽量化が要求されるレースカーでムダな重量増加は許されない。

アウディのハイブリッドレースカー「R18 e-tron クワトロ」
アウディのハイブリッドレースカー「R18 e-tron クワトロ」(クリックで拡大) 撮影:小林稔

ハイブリッド4WDでトラクション増加

 2012年のレギュレーションでは、時速120km以上の場合に限り、前輪から駆動エネルギーを放出することが認められた。そこでアウディが採用したのが、「e-tron クワトロ」なるハイブリッド4WD機構だ。e-tron クワトロでは、前輪にモーターを搭載し、回生で得たエネルギーをフライホイールの運動エネルギーとして蓄積する。そして、時速120km以上に加速したときには、同じモーターの動力を駆動側で利用して前輪をアシストするのだ。当然、ミド(車両中央付近)に搭載する、排気量3.7リットルのV6ディーゼルエンジンは、馬力で510ps以上、トルクで850Nm以上の駆動力を発揮する。2012年モデルは、このエンジンパワーにさらにモーターの出力が加わる。

ハイブリッド機構「e-tron クワトロ」の構成「e-tron クワトロ」によるブーストモード 左の図は、ハイブリッド機構「e-tron クワトロ」の構成。右の図では、時速120km以上のときに利用できるe-tron クワトロのブーストモードで加わる駆動力を示している。(クリックで拡大) 出典:アウディ

 アウディのモータースポーツ部門を統括するディーター・ガス氏は、「ハイブリッド機構を搭載するために、ベースとなるR18を徹底的に軽量化しました。ディーゼルエンジンのみで駆動する『ウルトラ』はレギュレーションで決められた900kg以下まで軽量化されていたので、前後のバランスを考えてバラストで重量調整をしたほどです」と語る。

 ハイブリッド機構の心臓部となるモータージェネレータユニットは、Robert Boschから提供されている。出力75kWのモーターを2個搭載することでデフを省き、パワーエレクトロニクス回路を内蔵して小型化を図った。

アウディのディーター・ガス氏
アウディのディーター・ガス氏 撮影:小林稔

 ガス氏は、前輪回生を選んだ理由を2つ挙げた。「1つは、発電効率の高さです。1速固定のプラネタリギアを介して減速、発電することで高効率のエネルギー回生が可能です。もう1つは、コーナーの出口で加速するときに4輪を駆動してトラクションを十分に使えることです」(同氏)。

 ただしアウディの場合、レギュレーションで定められている500kJまでの回生が可能であっても、回生されるエネルギー量はそれ以下の可能性がある。フライホイールによる蓄電機構の採用も、蓄電する電力量よりもトルクを出し入れする速度を重視した結果による選択に思える。これらの現実から想像するに、アウディがハイブリッド機構に期待したのは、モーターによる駆動力のブーストより、むしろ4輪駆動と考える方が妥当だ。そもそも、ディーゼルエンジンだけでも850Nm以上もの大トルクを発揮しているわけで、後輪のみではトラクションを有効に活用し切れていなかったと想像される。

優勝マシン「R18 e-tron クワトロ」1号車のドライバーを務めたアンドレ・ロッテラー氏
優勝マシン「R18 e-tron クワトロ」1号車のドライバーを務めたアンドレ・ロッテラー氏 撮影:小林稔

 実際に、優勝マシンであるR18 e-tron クワトロ1号車のドライバーを務めたアンドレ・ロッテラー氏は、「レギュレーション上、全長13.629kmのサーキットのうち、モーターによるアシストが可能なのは7カ所だけ。中でもポルシェコーナーのような高速コーナーの出口では、ウルトラではアクセルペダルを調整する必要がありますが、e-tron クワトロでは何の遠慮もなくフルスロットルを開けていけます」とコメントしている。

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