アウディの自動運転車とサーキットで対決、人間のドライバーは勝てるのか:自動運転技術(2/3 ページ)
アウディが米国カリフォルニア州のソノマ・レースウェイで自動運転車の体験試乗会を開催。アウディの「RS7」ベースの自動運転車「ロビー」と、かつて自動車レースで腕を鳴らした筆者が運転するRS7で、どちらが早く周回できるかで対決した。果たしてその結果は!? ロビーの自動運転の仕組みなどについても紹介する。
アウディが自動運転開発を行う理由
試乗会に先立って行われたプレゼンテーションで、アウディ側が「なぜ自動運転技術の開発に力を入れているのか?」について詳しく説明した。
目的は、セーフティー(安全)、コンフォート(快適)、そしてエフィシェンシー(効率、経済性)の3つだ。
セーフティーの分野では、交通事故は発生件数全体の約9割が「人為的なミス」とされており、これを自動運転によって改善することが可能だとした。コンフォートについては、ドライバーにとって車室内での自由な時間が増え、また狭いスペースへの駐車における利便性が向上すると説明。そしてエフィシェンシーでは、通常の運転方式と比べて燃費が3〜5%向上し、交通渋滞が現状と比較して5〜10%低減すると想定した。
さらに言えば、自動運転という“先進技術”を使ったブランディングを行い、企業と商品のイメージを維持/向上することもできる。実際、2015 International CESでは、半導体大手のNVIDIAと連携して報道陣およびバイヤー向けのイベントを開催し、世界市場に向け「アウディは自動運転技術で優れている」という情報発信を成功させている。
「ロビー」vs.筆者
今回、試乗会のプログラムは2日間に渡り行われた。その初日、まずボビーの無人走行を見学した。実際にその動きを見て、YouTubeの映像を通じて想像していたものより、走行速度が格段に「速い!」と感じた。最高出力570馬力をフルに使った豪快な加速、そして時速200km以上からのフルブレーキングと迫力満点。ただ、グランドスタンド周辺での見学だったため、S字コーナーでの動きなど、車両の機敏性については確認できなかった。
翌日の2日目の午前、ボビーと同じくRS7をベースとした「ロビー」で自動運転の同乗走行を体験した。
両車の違いだが、ボビーは車内の前部と後部に、水平方向で130度の視認範囲を持つステレオカメラを装着しており、ステレオカメラの映像によって走行位置と周辺の状況を補正している。一方、今回の試乗会に合わせて新しく開発されたロビーは、ステレオカメラを装着しておらず、さらに後席も取り外してカーボンファイバーのカバーを施した。
ロビーの試乗では、自動運転走行中の安全性を担保するため、アウディの自動運転開発担当者が運転席に、試乗を体験するわれわれが助手席に座る。
ピットエリアからコースイン。グランドスタンド前のスタート&フィニッシュラインで一旦停止。スタンディングスタート方式でGO!! シフトアップポイントは回転数が約6800rpmで、グイグイと加速する。
急勾配のターン1を抜けると、丘陵地帯の尾根を使ったアップダウンのあるS字ターンが続く。各コーナーへのブレーキングの位置、操舵のタイミング/速さ/量、アクセルオンのタイミングなど、どれをとっても完璧だ。こうした一連の動きにぎこちなさは全くない。
「まるで人間が操作している」ような繊細な動きだ。アンダーステアやオーバーステアなど、車両の走行バランスが崩れることは一度もなく、四輪駆動車の特性を生かした、ニュートラルな走行バランス感で各ターンを見事にクリアしていく。
特に、直線からヘアピンに進入する際のフルブレーキングは圧巻。必要最小限度の制動力を最良のタイミングで一気に掛け、それと同時にシフトダウンし、小さな旋回半径の車両運動へスムーズに移行した。かなり上位クラスのプロドライバーでしか持ち得ない、極めて高度なテクニックだ。
ロビー車内で筆者は、何度となく「すごい!」「うまい!」と口に出した。タイムアタックが終了したクーリングラップのさなかには、自然と拍手をしてしまったほどだ。
ロビーでの同乗走行を終えると、自動運転車ではない通常のRS7に乗り換える。そして、アウディ・スポーツカー・エクスペリエンスのインストラクターが乗る「R8」に先導され、筆者自身によるタイムアタックを行った。筆者は1980〜90年代初頭、同コースで各種の自動車レースに参戦しており、コースレイアウトは十分に理解している。とはいえ、いきなり570馬力のRS7でのタイムアタック。筆者なりに安全性を考慮しながら走行した。
走行タイムは、ロビーが2分2秒66、筆者が2分00秒17だった。この数字だけみると、筆者の方が速い。しかし、走りの質では「ロビーに完敗した!」という印象だった。筆者よりもロビーの方が、今後のタイムの伸びシロが大きいと感じたのだ。
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