燃料電池車「ミライ」で“バック・トゥ・ザ・フューチャー”が現実に!:今井優杏のエコカー☆進化論(18)(2/4 ページ)
燃料電池車「ミライ」の燃料は水素。この水素は、今までイラナイものだった下水汚泥からも作ることができる。でも、イラナイものでクルマが走るって、“バック・トゥ・ザ・フューチャー”の「デロリアン」と同じでは?
レクサスブランドのエントリーモデルあたりは喰っちゃう走行性能
ここ東京では、官公庁に既に納入されているミライを、ちらほら見掛けることも多くなりました。2014年11月の発表から色んな報道がなされていますが、ここで少しミライについておさらいしておきましょう。
トヨタが世界で初めて量産に成功したセダンタイプの燃料電池車、それがミライです。燃料は水素。空気中の酸素との化学反応によって発電し、その電気でモーターを動かして走ります。モーターを電気で動かして走るという意味では、電気自動車の一種になります。
ただし電気自動車と違う点は、まさにこの“自分で発電しながら走る”ところにあります。これまで電気自動車は、走行距離を伸ばすために大容量のバッテリーパックを搭載せねばならず、また満充電状態にするのにも、急速充電器で約30分、普通充電器なら約6〜8時間と時間がかかることが課題でした。
ミライには、運転席のちょうど真後ろ、クルマのおへその部分にあたる床下に、燃料電池セル(FC)スタックという箱が組み込まれています。そして後部座席とトランクの床下にそれぞれ1つずつ、まるでダイビングのときに背負うような形状の高圧水素タンクが収められています。
カーデザインの一部にもなっている車両前部の大きく口を開けたエアインテークから取り込まれた空気は、FCスタックの中で高圧水素タンクから送られた水素と出会い恋に落ち、そして愛の結晶として電気と水が生まれます。
その電気がモーターに送られ、クルマの動力になるのです。
現在、水素の充填にかかる時間は約3分で、水素満タン状態からの走行距離はJC08モードで約650km。水素を途中で継ぎ足さなくても、東京−富士山間の往復にかる〜くおつりが来ちゃうくらいの走行距離ですから、タフなビジネスユースにも確かに対応可能な数値ですよね。
さらに、試乗して感じた一番の魅力があります。それは、大きな声では言えないですけど、もしかしたらレクサスブランドのエントリーモデルあたりは喰っちゃうかもと思わせるほどに、スポーティーでカッチリした走行性能にありました。
ハイブリッドカーにもいえることですが、万が一の衝突の際に壊れたら非常にマズいことが起こりかねない(搭載物の爆発・火災などの二次災害など)モノ……例えばミライの場合はもちろん水素タンクやFCスタックですし、ハイブリッドカーの場合はバッテリーパックになります。これらを搭載しているクルマは二次被害を回避するため、通常のエンジン車でも十分な剛性が確保されているのに加え、さらなる補強がなされているのが通説。そしてその補強は結果的に走行にかなりグッドな効果をもたらすのです。
クルマは金属ですから、走行の際にタイヤから伝えられる道路の凹凸や路面の粗さを受け、あるいは空気抵抗を受けるなどして少しずつしなります。そしてそういった骨格がフニャフニャしていたら、車両に取り付けられたサスペンションの力点がブレてしまい、本来の減衰力を発揮できないという事態を招いてしまうのです。結果、ステアリングがぶれたり、グラグラフラフラするように感じたり、思うようにコーナーを曲がれなかったりするというよろしくないドライブフィーリングが生まれてしまいます。
そのへんミライでは、補強がバッチリ効いた、ガシッ、カチッと固められたボディが非常に印象的でした。乗り心地がカッチリしていてすごくフラットなのです。結果的に静粛性も高く、同時にコーナリングへの反応もとても素直でスポーツセダンのよう! しかしアシはしっかりしなやかで、後部座席に政治家先生を乗せていたとしても「キミ、もっと静かに走れんかね」とは決して言わせないであろう、至極滑らかなものでした。
ちなみに床下にはFCスタックや高圧水素タンクなど、これまでのクルマには搭載されていなかった色んなモノがぎっしり敷き詰められています。しかしこれらも、車両の前後のバランスを最適化するのに一役買っています。走行に必要な部品としての働きを全うしながら、同時に分銅のような役目も果たしているというわけで、転んでもタダでは起きないというか、重量あるならそれをバランス取るのに使えばいいじゃん! みたいなフレキシブルな考え方は自動車工学の面白い部分でもありますよね。
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