「家」を変えたサーモスタット「Nest」:家庭内IoT標準化を巡る動向(前編)(3/3 ページ)
自由度の高さ故にカタチが見えにくい「IoT(Internet of Things)」だが、取り組みが進んだ今、各社の将来像が見えてきた。本稿では前編として、IoTの1つの目標として見えてきたスマートホームについて、Nestの事例を通じて解説する。
汎用機器で実現するHEMS
Nestが第三者と実現したビジネスの1つに「Rush Hour Rewards」がある。これは真夏などの電力利用が集中する時期に電力会社がインターネットを経由してNestを遠隔操作し、個人宅の電力利用量をコントロールできるというもので、このプログラムに参加するNestユーザーは電力会社からキャッシュバックを受け取ることができる。
2014年5月時点で同リワードプログラムは、テキサス州の電力会社Austin Energyを含む5社が導入している。Austin Energyでは、2013年より、同意の得られた顧客に対し、NESTを中心としたスマートサーモスタット経由で顧客宅の空調設備を、電力需要に合わせて調整するというサービスを展開している。2014年5月時点での契約顧客数は約5500世帯で、利用されているスマートサーモスタットの大半がNestだそうだ。
Austin EnergyはNestを利用している顧客に対して85ドルをワンタイムで支払う一方で、各サーモスタットメーカーに対してはサーモスタット1台につき初年度は25ドル、次年度以降は15ドルを支払っている。一見高額に感じられるかもしれないが、電力会社は通常ピーク時の電力利用量を見越して設備投資を行うが、遠隔コントロールによりピーク時の電力量を下げることができるため、コスト削減につながる。
また、Austin Energyの夏における電力の卸売り価格は通常の40ドル程度から1000ドル以上へと跳ね上がるため、ピーク時の電力使用量をコントロールすることで、供給電力量を削減し、卸売価格の高騰を防ぐことも可能となる。総合的に見れば、Nest Labs、電力会社、顧客の全てがWin-Winの関係を築けていることになる。
このようなデマンドレスポンス関連サービスはこれまで、法人向けに提供されることが多かった。しかし、Nest Labsは、電力会社などの特定機器を新たに導入することなく、汎用機器でデマンドレスポンスサービスを実現したのだ。同社はこのサーモスタットを購入した世帯の半分近くはこのサービスを契約するだろう、としてサーモスタット導入の意義を強調している。
前述の通り、Nestは「家の中」の情報を収集することが最終的な目的だ。このことからも、GoogleがNestに目を付け、莫大な金額を投入して買収したことは頷ける。しかし、少なくとも現時点において、Nest Labsは同社が収集した情報は一切Googleには提供していないとしており、今後の展開については、今のところ明らかではない。Googleのミッションを考えるならば、「家の中」の情報はノドから手が出るほど欲しい情報であり、今後何らかの形で連携が実現されるのではないか。
その一方でGoogleは、これまで何度もスマートホームやHEMS分野への参入を試みているものの、成果が実らずに終わっている。Googleが直接コントロール可能な「Android OS」をさまざまな機器に載せることでスマートホームへの参入も試みたが、目論見通りに進展しない中でのNest Labs買収であった。
Googleのスマートホーム分野に関する取組はこれだけではない。別な参入方法としてスマートホームやその他の機器間連携を含めたIoTの規格標準化団体「Thread Group」を率いている。GoogleがIoTの標準化に動き出したことに刺激され、他の企業のも足早にIoT関連デバイスの機器関連系の標準化に向けた動きを見せ始めている。その点については、後編で解説したい。
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