トヨタ中国攻略の切り札、ハイブリッド車は「新エネルギー車」になれるのか:上海モーターショー2015 リポート(4/4 ページ)
フォルクスワーゲンやGMといったライバルに対して、中国市場での出遅れ感が否めないトヨタ自動車。巻き返しの切り札として期待しているのが、中国現地で開発から生産までを一貫して行ったハイブリッド車だ。都市部での購入が促進されている電気自動車などと同じ「新エネルギー車」として認められれば、同社の反転攻勢のきっかけになるかもしれない。
中国で「プリウスPHV」はプラグインハイブリッド車ではない!?
トヨタ自動車の認識通り、これまで中国では、新エネ車として電気自動車やプラグインハイブリッド車の普及に重きが置かれてきた感がある。フォルクスワーゲンに代表されるドイツ勢やGMは、中国専用の電気自動車を開発したり、内燃機関車のプラグインハイブリッドモデルを投入したりなどの対応策を講じてきた。
現状でも、広州のようにハイブリッド車を新エネ車に指定する都市もあるが、北京や上海といった一級都市では、現状、電気自動車やプラグインハイブリッド車といったモーター駆動の車両を重視する政策が敷かれている。しかし、トヨタ自動車のプラグインハイブリッド車「プリウスPHV」は、モーターだけで走行できるEV走行距離が、中国のプラグインハイブリッド車の指定基準である50km以上を達成できていない。同社としては、2020年からの施行が想定される新燃費規制に向かって、まずはハイブリッド車の存在感を強調していきたいところだろう。実際、大西氏は、このように付け加えている。
「中国国内で、これだけ電気自動車の推進がなされていることによって、電池技術における革命が起こることも否定できません。中国には、それだけの力が備わりつつあると感じています。そうした期待を含めて、中国独自のブランドである『領志(リンジー)』で小型電気自動車を投入する予定です。これと併せて、2020年までの新車種投入を含めて、ハイブリッド車の展開を充実させて、大きなキャンペーンを展開することも考えています。ぜひ、期待していてください」(大西氏)
中国政府は、2020年までに500万台の新エネ車の普及を目指す目標を立てている。新エネ車を電気自動車やプラグインハイブリッド車に限っている現状では、充電インフラの設置台数の少なさがネックになって普及の速度は鈍い。ハイブリッド車の強みを生かしたいトヨタ自動車の思惑とあいまって、ハイブリッド車が新エネ車として広く認められれば、トヨタ自動車の中国市場における巻き返しが始まるのかもしれない。
筆者紹介
川端由美(かわばた ゆみ)
自動車ジャーナリスト/環境ジャーナリスト。大学院で工学を修めた後、エンジニアとして就職。その後、自動車雑誌の編集部員を経て、現在はフリーランスの自動車ジャーナリストに。自動車の環境問題と新技術を中心に、技術者、女性、ジャーナリストとしてハイブリッドな目線を生かしたリポートを展開。カー・オブ・ザ・イヤー選考委員の他、国土交通省の独立行政法人評価委員会委員や環境省の有識者委員も務める。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- ダイムラーの中国産電気自動車「DENZA」はどんなクルマなのか
ドイツ車メーカーの中でも電気自動車(EV)への取り組みで先行してきたDaimler(ダイムラー)。同社がBYDとのジョイントベンチャーで、約4年の歳月と5億ユーロの巨費を投じて開発した中国産EV「DENZA」が間もなく発売される。DENZAはどんなクルマなのか。川端由美氏によるリポートをお届けする。 - 中国地場自動車メーカーは過剰在庫で値下げへ、それでも利益率は伸びる
Bloomberg Intelligenceのシニアアナリストを務めるスティーブ・マン氏が2015年の中国自動車市場の見通しを語った。経済成長の鈍化をはじめとするマイナス要因があるものの、中国の自動車メーカーの利益率は成長が予測されているという。 - 「トヨタはすし屋になりたい」――その心は?
第5回国際自動車通信技術展」の基調講演に、トヨタ自動車の常務役員を務める友山茂樹氏が登壇。「トヨタ方式とICTによる自動車販売革命」と題した講演の最後に、友山氏は「トヨタはすし屋になりたい」と語った。この言葉にはどういう意味があるのだろうか。 - トヨタの中国戦略、中国向け新エネ車の開発を中国で進める
トヨタ自動車は、日本、米国に続き中国でもPHVやEVの研究開発を進める。主に中国国内向けに投入する環境技術を開発する。 - コア技術の現地開発に乗り出す日産、重い腰を上げたトヨタの本気度
日産は2012年1月から広州・花都で製造ロボットを導入して自動化率を高めた第2工場を稼働させる。中国市場で負け組に入りつつあるトヨタも同じ1月から現地生産・調達の推進や新興市場マーケティングに向けた組織改編を行う。グローバル開発・製造に向けた自動車メーカーの動きを読む。