敵キャラ遭遇確率と不具合発生確率:RPGで理解する生産管理(3)(4/4 ページ)
製造業にとって重要な要素である「生産管理」ですが、なかなか初心者には理解するのが難しい……。そんな生産管理初心者に向け、RPG(ロールプレイングゲーム)になぞらえて分かりやすく生産管理を解説する本連載ですが、第3回となる今回は、不具合発生確率の観点から、シックシグマやハインリッヒの法則をご紹介します。
パレート(80対20)の法則とは
製造現場で利用できる確率・統計手法としては、前回の「RPGクリアに欠かせないアイテム管理と在庫管理」にも関連する「パレートの法則」などがあります。
パレートの法則とは、集団全体の内の大部分のものは、その集団の少数の要素が生み出していることを経験的に導き出した法則で、「80対20の法則」や「ばらつきの法則」とも呼ばれています。
実はわれわれの周囲にはこの「小数が大勢を占める」状況が数多くあります。「売上高の80%は、上位営業マン20%によるもの」や「故障の80%は、20%の部品に起因するもの」、「全資産の80%は、20%のお金持ちのもの」など、厳密に80対20にならなくとも、多くがそれに近い割合になっています。
古くはユダヤ商人が「78対22の法則」として、経験則から活用していました。それはまた、最も美しい比「黄金比」として、自然界の比率にも通じています。ビジネスの世界でも、売上管理、在庫管理、マーケティングなどのあらゆるシーンで活用されています。
在庫管理のABC分析のやり方
前回の「RPGクリアに欠かせないアイテム管理と在庫管理」では、「品目点数は10%程度で、売上金額の75%までを占める重点管理品目」の話をしました。これも「小数が大勢を占める」パレートの法則を活用しているものです。
商品別に売上高が高い順に並び替え、累積売上高が上位75%までの商品をAランク、75〜90%までをBランク、90〜100%をCランクと位置付けて、商品を分類します。ここから、より売上高に占める割合の高いAランクの商品を重要管理品目と位置付け、定期発注点方式による発注で、手間が掛かっても在庫管理を重点的におこなっていく品目とするのです。
パレートの法則からいえば、2割の品目の在庫管理を徹底すれば、売上高の8割に影響を与えることができます。機会損失や不良在庫なく管理することで全体的に大きな売上高の伸びが期待できるというわけです。
Bランクの商品は中程度管理品目として、ある程度自動化を図った定量発注点方式を採用し、事務負担を軽減します。Cランクの商品は一般管理品目として、あまり手間をかけずに、1品目あたり2つの入れものを用意します。消費して1つがなくなったら、その1つ分を発注する(ダブルビン方式)などの工夫を施すと効果があるかもしれません。
つまり、販売機会の多いAランク品目を、重点的に労力をかけて管理し、Cランク品目にはなるべく労力と費用をかけない工夫が求められているということです。そういえば、RPGをプレイしていても、よく使うアイテムというのは、全体の2割程度だったりしませんか。その際にも、よく使うアイテムだけ分類しておき、きっちり整理整頓し、ほとんど使わないCランクに位置付けられるアイテムは、道具袋に放り込んでおくだけ、といった管理で問題ないということが分かります。
ハインリッヒが発表した1:29:300の法則とは
確率・統計の話の最後として、ハインリッヒの法則を紹介しておきたいと思います。
「ハインリッヒの法則」とは、企業の労働災害の事例統計を分析したアメリカの技師、ハーバート・ハインリッヒ氏が発表した法則です。ハインリッヒ氏は労働災害の分析の結果「1件の死亡や重症などの重大災害が発生する裏には、29件の軽傷事故と、300件のヒヤリ・ハットがある」と発表しました。これが意味することは、「いつものことだから大丈夫」とタカをくくっていると、それはやがて大きな災害を招いてしまうということを示します。
RPGで洞窟を探検していて、何も考えずに進んでいくといきなり強敵が現れて全滅する、なんてこともありがちです。しかし、その前に多くの場合、「今の敵、強かったなあ、回復が遅れてたら、死んでたかも……」というようなヒヤリとした場面が存在しており、その時点で気付いて、強い武器購入やレベルアップなどの対策をしておけば、全滅しなかったということが起こり得るわけです。
工場などの作業環境において、安全対策が十分でなく、ヒヤリとすることが300回あるのならば、29回ほどは軽傷事故が起きている可能性があります。そして、それがやがて重大な事故を引き起こすということにつながります。ハインリッヒの法則を常に意識し、安全対策にはタカをくくらず、先手先手の対応を心掛けておきたいところです。
次回は?
次回は「生産管理の本質」をテーマに、「MECE」や「問題、原因、課題」「WHY5」「ロジックツリー」「論理的思考と仮説思考」などの考え方を解説します。(次回に続く)
筆者プロフィル
山口 亨(やまぐち すすむ) UTAGE総研 代表取締役 中小企業診断士
愛知県一宮市出身。中小企業診断士として、東京商工会議所を中心に、日々中小企業の経営改善現場で活躍。特に無料ツールを活用した、ITインフラ構築や販売促進支援と創業時などの思いを事業計画書という形に作り上げる支援に定評がある。また、著書に「ガンダムに学ぶ経営学」「ドラクエができれば経営がわかる」がある。
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