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良い営業、普通の営業、悪い営業、嫌な営業誰も知らない生産管理の苦悩を徹底討論(2)(1/3 ページ)

日本が世界に誇るモノづくり文化の中で、おそらく最も地味な役回りを演じているのが生産管理部門だ。彼らはどんな苦労を抱えて日々の仕事をこなしているのか。普段聞くことのできない彼らの本音を語ってもらった。

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 モノづくり企業の生産管理部門担当者による座談会の第2回をお届けしよう。前回「そんな日程じゃ無理! といえない生産管理者」では、工場、営業、お客さん、サバ読みに関して話が盛り上がった。今回はさらに突っ込んで、在庫に関して激論を戦わしてもらおう。


司会

村上 悟(ゴール・システム・コンサルティング 代表取締役)

出席者

A氏(住宅設備メーカー勤務、32歳) 住宅設備に使われる部材を造る工場の生産管理を担当して6年半ほど。SCM(サプライチェーンマネジメント)や生産スケジューラ、需要予測ソフトウェアなどさまざまな手法にチャレンジしたが、いまだに決定打を見つけられない。

B氏(部品加工メーカー勤務、48歳) 10年ほど前に転職して、4年半ずつ約9年、2つの工場の生産管理を担当。丼勘定だった工場に本格的な生産計画を導入。その後、営業も巻き込んだ全社的TOC活動を主導し工場の黒字化を達成した。

C氏(食品加工メーカー勤務、40歳) ネットビジネスの会社から7年前に転職。工場のIT化を推進し、主に在庫の可視化と労務コスト削減を狙った生産管理システムを立ち上げたが、なかなかうまく回らず終電暮らしが続いている。

※編集部注:保守義務を伴う業務の性質上、出席者は匿名とし、話題に上った企業名や製品名は伏せて記述している。



在庫との戦いに勝算はあるのか?

村上 前回のリードタイム、仕掛かり、在庫の話題で、リードタイムが2カ月だと仕掛かり在庫2カ月プラス倉庫在庫1カ月、全部で3カ月分の在庫を持ってしまうという話がありました。これが全アイテムだとすると大変な在庫量になりますね。皆さんはどうやって、在庫の問題に対応されているのですか。全アイテムで3カ月の在庫を持つことはあり得ないでしょうから、代わりに原材料で持つとか、営業に毎日電話を掛けて需要予測を立て優先順位を組み直すとか……。

A氏 私はいろいろ試しましたね。まずやったのは生産スケジューラ。在庫がたまるのは生産計画が悪いからだろうという仮説ですね。コンピュータに計算させて“良い”生産計画を立てれば在庫は減るのではないか。在庫って不必要なものじゃないですか。不要のものを造るように自分たちで生産指示を出しているわけですから、そんな計画が悪いんだろうと。ところがスケジューラを導入してみても、生産計画が良いのか悪いのかが分からないまま、そのプロジェクトはあえなく終わりました。計画の良い悪いを判断する基準がそもそもなかったし、計画を出しても現場がそのとおり動いてくれなかったなど、いろいろな原因がありました。
 それから需要予測のソフトウェアも使ってみました。これも統計的に需要はこうだといわれても……それはそうなんですが、その正否を検証をするのが困難なのと、全アイテムを対象としてシステム化しようとすると膨大な手間が掛かるので、結局うまくいきませんでした。『二十数個の統計モデルから最適なブラック・ショールズ・モデルを選択し……』とかいうダイアログが出るのですが、それでどうなのって(笑)。
 かんばん方式をカスタマイズして導入したこともありました。これは仕掛かり在庫対策ですね。途中工程に滞留している仕掛かり在庫は、生産管理の方から出している生産計画に基づいているのですが、これを削減するにはどうしたらよいか。生産スケジューラではダメだと分かったので、後ろの工程から必要なものだけをかんばん方式で生産指示していればうまくいくだろうと。これはいけると思いましたね。
 生産品種は4つあって、1つは生産量の50%を占めるアイテム、もう1つは40%を占めるアイテム、この2つはかんばん方式でうまく仕掛かり在庫を削減できたのです。ただ……残りの数%を占めるアイテムが入ってくると、どうにもならなくなる。計画表すら出せなくなって、結局3カ月目くらいにギブアップしました。かんばん方式自体が悪いわけじゃないんですよね。では何が悪いのかというと、よく分からない。
 唯一うまくいったのは、拠点の統合でした。これは製品在庫の削減です。全国各地にメーカー在庫の倉庫があって、営業在庫の補充をするのに「受け後2カ月」となっていた。発注後2カ月で納めますということです。ロール発注ともいいます。お客さんの倉庫ではなく、営業の倉庫に納めておいて、例えば名古屋の倉庫には在庫が多過ぎて新潟の倉庫では足りなくなる、という在庫予測をそれぞれの営業所で実施して在庫をやりとりしていたのですが、この拠点ごとの在庫予測が外れまくって大変なことになっていた。

B氏 ところが、倉庫全体でならすと2カ月分の在庫が常にある。

A氏 そのとおりなんです。全体に在庫はあるけれど、必要な拠点には常にない。拠点同士が電話を掛けまくって、在庫が全国をぐるぐる回っている状態でした。

村上 まさにTOCが指摘する「欠品と在庫はセットになって存在する」ですね。要らない在庫はあって、必要な在庫はない。

A氏 ある営業在庫が1カ月分あったとします。でもこれは数字上の平均値であって、実際には2カ月分の在庫を持っている拠点と、在庫切れ(0カ月分)のところがあるという場合だってある。そういう状況が全国で起こっていたので、在庫基準を決めて、それ以下になったときに中央倉庫から補充するという形に変更しました。

村上 在庫を中央倉庫に集めて、拠点在庫を引き上げたんですね。

A氏 「発注する」という概念をなくして、「補充する」ことにしたんです。つまり売れた分だけ補充すると。どのみち配送用のトラックは毎日各拠点を回っているので、実質的には大きな違いはなく、それだけのことでかなり在庫は改善しました。

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