みんなに、モデルベース開発のことをもっと知ってほしい:モデルベース開発奮戦ちう(10)(4/4 ページ)
ついにモデルベース開発を適用した「CVT∞」を完成させた京子たち三立精機の制御設計チーム。成果報告のための会議で説明担当になった京子だったが、そこでこれまでとは異なる種類の課題にぶつかることになった。
やらなくちゃいけないこと……
三立精機初のモデルベース開発の事例であるCVT∞の成功を機に、社内でもモデルベース開発が一気に広がりをみせた。現在では、多くの部署でモデルベース開発ツールが利用されており、代表的なツールである「MATLAB/Simulink」の社内ライセンスも気が付けば3ケタまで増えていた。社内における仕様書も紙に替わって、モデルが流通し始めている。
そんなある日のモデルベース開発課の定例ミーティング。大島さんが今感じている課題について話した。
正直、こんなにモデルベース開発が当たり前になるとは思っていなかった。それはそれで良いことなんだが、実は、今までモデルを開発することと、モデルベース開発を推進することに精いっぱいで、まわりの状況を理解できていなかった。この間、たまたまある部署のモデルを見る機会があって、気付かされたんだよ。
どんなモデルだったんですか?
とにかく煩雑なモデルなんだよ。何というかとても見づらいんだ。モデル作成のガイドラインは当時整備をして、順守するように各部署に伝えていたはずなんだけどなぁ。どうしてなんだろう?
五十嵐さんも困惑している。
うーん……。どうしてなんでしょうねぇ。
モデルベース開発に携わる最初にこそ、しっかりとしたモデルベース開発の教育をしておかないといけないのかもしれない。
大島さんが感じているように、ここにきて三立精機では、モデルベース開発の基盤を管理する必要性が出てきていたのだ。
大島さんと私は、この問題点を山田課長に報告し、モデルベース開発基盤の管理の必要性について訴えた。山田課長は問題を理解した上で、部下を集めての話し合いを行って、近日中に具体的な対応策を出すことを決めた。
そして数日後の朝会。
このたびモデルベース開発課に、新たに基盤強化チームを設立することにしました。このチームでは、主に全社のモデルベース開発におけるライセンス管理、データマネジメント、モデルベース開発の教育などを行います。そしてこのチームには、大島さん、京子ちゃん、五十嵐さんが異動となります。
山田課長からの突然の辞令に私たち3人は驚きを隠せなかった。けれども、基盤強化チームの必要性は誰もが感じていたことだった。私は、新たなステージでの仕事にわくわく感を隠せなかった。
基盤強化チームでは、データマネジメントも必然的に行っていくことになります。そこで、次回のJMAABコアミーティング※)で、このワーキング活動をわが社から提案したいと考えています。JMAABでワーキング活動を行うことにより、いろいろな問題も知見のある人たちとの協業によって解決されることでしょう。とても期待しています。京子ちゃんは、幹事としてワーキング活動の提案を行うための資料作りに早速とり掛かってちょうだい。
※)JMAABコアミーティング:JMAABのコアメンバー(OEM24社、サプライヤ12社)による会合のこと。通常は年間に2回(5月と10月)開催される。
いろいろな重圧がのし掛かって来るけれども、そんな状況も嫌いじゃない。
忙しくなりそうだけど、前のめろっと!
その後のJMAABコアミーティングにおいて、三立精機の提案したデータマネジメントワーキングは10社の合意を得て了承された。幹事は私が担当することになった。
それと並行して、基盤強化チームの最初の活動として、全社におけるモデルベース開発の教育カリキュラムと、その実施計画も作成することになった。その中で、まずはモデルベース開発ツールの使い方に関するセミナーを実施することとなった(以下、次回に続く)。
執筆者プロフィール
JMAAB/今さら聞けないMBD委員会
JMAABのWebサイト http://jmaab.mathworks.jp/
モデルベース開発(MBD)を発展させるべく、自動車メーカーとサプライヤからなる団体『JMAAB』は13年前(2001年)に生まれました。このJMAABの10周年記念において、「MBDを分かりやすく伝えたい」という目的で発足したのが『いまさら聞けないMBD委員会』です。委員会メンバーが所属する10社でMBDを推進してきたエンジニアが協力し、これまでの経験や将来の夢を伝えるべく推敲を重ね、本連載は完成しました。皆さまのモノづくりの一助となれば幸いです。
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