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デザインとメカ設計が“戦う”のではなく“融合する”、デンソーの製品開発文化メカ設計イベントリポート(3/3 ページ)

デンソーは2014年に「医薬・医療用ロボット VS-050S2」でグッドデザイン大賞を受賞した。このデザインは、デザイナーと設計者との初期からの密接なコラボレーションから生まれた。これを可能にした理由の1つには、デンソー独自の風土にもあるようだ。

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デザイナーとエンジニアの協力がうまくいった理由は?

 今回、デザイナーとエンジニアの仕事がスムーズに進んだ最も大きな理由は、「最終製品の理想像を極めて早い段階から共有できていたからだろう」と折笠氏は言う。そのため製品化までにたくさんの障壁はあったものの、極めて積極的にそれらに取り組めたそうだ。「従来、工業デザインの世界では、設計要求とデザイン要求が相反することが当たり前で、むしろいかに戦って要求を通すかが美徳ともされてきた。だが最近は、デザイナーとエンジニアのモチベーションの方向性には違いがなくなってきているのではないか」(折笠氏)。若い世代のエンジニアの多くは、自分の領域外であるにもかかわらず、製品がいかに美しくなるかということに注目し、よいと思えば実現のために苦労を惜しまないそうだ。

 デンソー デザイン部 担当部長の吉田佳史氏も「エンジニアリングとデザインの融合」がデンソーの特徴だと説明した。その例として、デンソーの顔とも言えるエンジンコンパトーメント(EC)にも、機能性や品質を表現するようなデザインを採用したものを紹介した。「ECはエンジン用コンピュータであり、精度で他社の追随を許さない製品だ」(吉田氏)。だがその機能や品質感は、従来の外見からは伝わってこなかった。そこで他社とも共通な部分と独自技術のコネクタ部分に分解して研究し、放熱フィンの形状も研究し直して、品質を体現するようなデザインを作り出したという。


デンソー デザイン部 担当部長の吉田佳史氏

デンソーならではのデザイン環境

 デンソーのモノづくりにおいてデザインが重要視されている背景には、同社独自の理由もあるという。デンソーは従来、必要とされる部品を供給する業務が主で、社内に商品の企画部門がなかった。そんな中、新しい事業を始めようとしたとき、横断的にさまざまな部門とかかわりのあるデザイン部門にその役回りが来たということがあるそうだ。そうしてデザイン主導で商品を企画する文化が作られていった。

 ちなみに吉田氏によると、基本的にデザインのダメ出しはしないそうだ。それは自分が部下の立場の時からだそうで、「何をやってもよい」という自由な風土のせいもあるかもしれないということだ。

 折笠氏が今回の受賞で感じたのは、「『形態は機能に従う』というプロダクトデザインの本来のあり方への回帰が起こりつつあるのでは」ということだそうだ。グッドデザイン賞はモノのデザインだけでなく、関係する人や周りの事象を動かす「コトのデザイン」も対象にしている。「その中でこのロボットが選ばれたことは、単純に美しいプロダクトが求められているのではないか」(折笠氏)。

今後のデザイナーの役割とは?

 現在はエンジニアやデザイナーなどクリエイターになるハードルは低くなっていると折笠氏は指摘した。3Dプリンタの普及や「Adobe Creative Cloud」など定額式クラウドツールの提供によって、クリエイティブな行動を起こすハードルは低くなっている。またSNSの普及によって、作品を公開、発信することも容易になっている。

 そんな中でデザイナーが持つ役割は、「無から有を生む力」ではないかと折笠氏は述べる。「これは見えない理想や概念みたいなものに形を与えて、完成像につなげて、共有する力」だという。「それは言い換えるとプロトタイプする力。例えばプログラムを組むなどデザイン以外の全てのモノづくりに携わる人にとっても、プロトタイプを生み出す素早さと瞬発力みたいなものが、これからクリエイターとして生き残っていくために必要な能力ではないかと思っている」(折笠氏)。

 折笠氏は「デンソーは技術の会社であり、部品を開発してきた中で、実際に使われずに眠っている技術はたくさんある。それに対して出口を見つけてやるということは、いろいろな事業部を横断するデザイナーの役割だと思っている」という。

 現在取り組んでいるものには、脳外科医の手術補助具などのデザインもある。デザインジャーナリストの藤崎圭一郎氏は「(デンソーでは)非常にイノベーティブな製品がどんどん出てきていると感じる。自分たちの技術で社会に対して何ができるのか問い続けることで初めてイノベーティブな発想が出てきているのでは」と述べた。


デザインジャーナリストの藤崎圭一郎氏

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