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「灯籠流し」「奇跡の一本松」を守るための風洞実験風洞実験の現場(後編)(2/2 ページ)

建造物や屋外の設置物の風耐性を調べるには風洞実験が適している。東北大学で行われた実験の中から東日本大震災の復興に関する風洞実験を紹介する。

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風に負けない重量を検証

 今回重要だったポイントの1つは、絶対に風で壊れたり倒れたりしてはいけないということだった。枠は金属製とし、側面はプラスチックで覆った。倒れないためには中におもりが必要だったが、どれだけの重量が必要なのかは分からなかった。そんな中、東北大に風洞があることを知り、実験したいと相談したという。そこで風洞実験を条件によっては無料で行えることが分かり、実際に検証を行うことになったそうだ。

 実験は低乱熱伝達風洞で行った。灯籠を置くアスファルトは摩擦係数0.98のため、紙やすりで模擬的に再現した。2013年3月の最大瞬間風速は、8.2mの高さの風速計によると秒速27.8mだった。「速度勾配を考えると大体地上では約半分になることから、秒速15mの風速に耐えられることを想定しました」(風洞実験などを担当したパナソニック AVCネットワークス社 仙台工場 工場企画担当主事の石山光広氏)。これらの環境で風洞実験を行った結果、2kgの重りがあれば強風にも耐えられると判断した。


風洞実験。中央に灯籠を置いて風を当てているところ

 設計は2013年12月に行い、「2014年1月に材料が届いてから、仕事が終わった後1カ月の間、2〜3時間を制作に充てました」(灯籠設計の中心メンバーであるパナソニック AVCネットワークス社 仙台工場 技術チーム チームリーダーの赤間広治氏)。2014年3月の実施当日には、各地から約100人のボランティアが集まり絵灯籠を設置。無事に閖上中学校までの光の道を作ることができたという。2015年も去年のものを組み立てて、新たに募集した絵をはめ込んで実施する予定だ。

 佐宗氏は「ここであったことは忘れたくない。今は年賀状も出せないし携帯電話の番号を知らなければ連絡も取れない。追悼行事は懐かしい人に会える機会でもあり、ずっと続けられれば」という。

灯籠で作られた光の道

「奇跡の一本松」が倒れないために風洞実験

 岩手県陸前高田市の「奇跡の一本松保存プロジェクト」でも実は風洞実験が行われている。奇跡の一本松は陸前高田の海岸で津波によって松林が根こそぎ流された中、1本だけ残っていたものだ。残念ながら海水によって枯れたことが確認されたが、人々を勇気づけるシンボルとして保存されることになり、2012年から2013年にかけて保存・設置作業が行われた。


陸前高田市にある「奇跡の一本松」モニュメント 提供:陸前高田市

 背が高く細い構造物である一本松に、強風でも破損しない強度を持たせるため、構造設計を担当した航空宇宙技術振興財団が中心となり風洞実験が行われた。実験では40分の1模型を制作して抗力係数を求め、それを十分な強度を持つレプリカを作るための基礎データとした。

 実験は東北大学 流体科学研究所の低乱熱伝達風洞で実施した。実際の一本松は27m超だ。風洞実験の諸条件により、木の上部の枝葉の密集する部分の模型で十分だと判断し、高さ170mm、最大幅370mm、重さ680gで、風洞の風速に耐えられる程度の強度を持たせて制作した。

 松は通常の建築物と違って複雑な形状のため、まず鉛直軸回りにいろんな方向に回転させて風を当て、抗力の方向依存性を調べた。次に最大抗力が生じる角度において、抗力の風速依存性を調べた。風速を変化させ、動圧と抗力の関係を調べたところ、きれいな比例関係となった。これにより抗力係数CDを求めた。CD=D/(q×S)で、Dは抗力、qは動圧である。Sは最大の投映面積で、模型写真から画像処理ソフトウェアによって、0.022±0.0002m2と算出した。これによりCD=0.95を導く。

 なお丈夫に作ったことにより弾力性に乏しくなり、また枝葉の密集度が大きくなったが、実験で得られたデータへの影響は安全側になるという。得られたCDは一本松に耐風強度を持たせるための構造設計に利用された。


40分の1スケール模型で風洞実験を行い、抵抗係数を求めた 提供:一般財団法人 航空宇宙技術振興財団

 幹の外部は処理を施し、骨材にはCFRPを使用して、コンクリート基礎の上に設置された。現在はモニュメントの近くにJR大船渡線BRT(バス高速輸送システム)「奇跡の一本松駅」ができ、震災直後の姿が見られる。

 ここでは研究機関と民間が一体となって復興活動を行った例を紹介した。東北大学 流体科学研究所では、上記のような屋外における対象物の風力耐性の他、移動体や風力利用などさまざまな流体に関する実験を行うことができる。興味のある人は問い合わせてみてほしい。

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