「はやぶさ」の電力制御は“いい感じの割り勘”方式?:インターネプコン(2/2 ページ)
エレクトロニクス製造・実装技術展「インターネプコン ジャパン」の基調講演に宇宙航空研究開発機構(JAXA)宇宙科学研究所 宇宙飛翔工学研究系 教授でシニアフェローの川口淳一郎氏が登壇。「『はやぶさ』プロジェクト発のスマートエネルギー技術」をテーマに、サーバ・クライアント間通信を必要としない電力制御装置の新方式を紹介した。
「モジュラーごと」「プラグ&プレイ」という考え方
モジュラーごとに電力制御システムを構築できることが、この方式の出発点だ。HEMS(Home Energy Management System)、BEMS(Building Energy Management System)のような全体監視設備の導入は必要なく、プラグ&プレイ方式、つまり分散処理方式を指向していることが特徴だ。ただ、はやぶさでは、集中管理方式が採用されて全ヒーターが1つのコンピュータで管理されている。
この電力制御方式は、通信が同報送信だけで、各機器では独立分散の並列処理を行う。これを組み合わせることでできる処理方法である。電車の電力量制御や携帯電話端末などでの情報処理にも応用可能だとしている。
川口氏は「電車の制御は、実は双方向通信で行うことが大変難しい領域だ。電車が変電所の区間に入ってくる数は決められているが、突然電車は入ってきて、突然去っていく。通信のアドレスをあらかじめ振って双方向通信にしようとしてもできるわけがない。プラグ&プレイ方式で制御することが望ましい」と話している。
また、オフィスのLED照明の制御などにも有効だ。例えば、3つの電力系統があったとする。1つの系統(アイランド)ごとに一定の電力でこれをまかなうには、優先度を個々の環境(人感、照度)から考慮して、電力削減要求量の同報発信と、どういう明るさにするかという調整を出先に任すという、独立分散・並列処理を並列して行う。こうすれば、台数が増えても階層化しても制御速度が落ちない。優先度を各個体で設定して、制御は高速で制約を満たすことができるというわけだ。
分散型電力制御は「割り勘」?
川口氏は「この分散型電力制御を『割り勘』というものを使って説明できる」という。割り勘では参加メンバーの役職(収入)によって、支払額が傾斜負担となる場合が多い。傾斜負担とは例えば、飲み会に部長、課長、係長、平社員の4人が参加した場合、それぞれの役職という優先度によって負担に差をつけるものだ。
これは優先度のばらつきを考慮した総額を割り当て負担させる問題である。優先度は時に、当日の所持金やカ―ド支払希望などで、突然変動することがある。優先度の“時々刻々の変動”である。通常は参加者への傾斜を幹事(サーバ)が集計して、その結果を参加者に通知するというやり方を取ることが多いだろう。これがサーバ・クライアント型の制御にあたる。しかし、この方式では参加者が多くなると、集計作業、つまり通信に膨大な時間を要する。また、制御応答が極端に遅くなることにもなる。
今回の分散型電力制御方式を割り勘に当てはめるとすると、参加者個人に、あるルールで、自己優先度を定義してもらい、幹事からの号令に基づいて、各個人が簡単な計算を同時に行う。何回かの繰り返し計算を行うだけで、自動的に傾斜割り勘ができるということだ。
JAXAではこの技術を電力買い取りに関する諸課題へソリューションを提供する考えだ。再生可能エネルギーの全量買取り制度が始まって、諸課題が明らかになってきた。その中で、川口氏は「この方式は低速な通信手段でも、臨機応変な高速の応答体制をモジュラーに構築できる点に特徴がある。大きな初期投資がなくても、また、分散電源個体のめまぐるしい増加に対応できる」とそのメリットを強調した。
家庭内の電力制御でも同じであり、エアコン、LED照明でも一方向通信で臨機応変の電力制御が可能だ。アラートモジュールとメディアコンバータでタイアップするだけである。エアコンやLEDでは既存のハードウェアをそのままに、赤外線I/Fを利用するだけで、送信機は家電メーカーが作って販売する必要はない。サーバも見える化もなくても夢のピークカットに参加できる。JAXAはこの送信フォーマットを公開しており、赤外線メディアを備えた家電機器へはロジックIPを無償提供する方針という(関連記事:エアコンに「はやぶさ」の電力制御、家庭のピークカットに生かす)。
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