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小惑星イトカワの微粒子はこうやって採取された! 〜サンプラーの仕組み【前編】〜次なる挑戦、「はやぶさ2」プロジェクトを追う(2)(1/2 ページ)

小惑星からサンプル(試料)を採取し、地球に持ち帰ることが「はやぶさ」シリーズのミッションである。その成功のカギを握るサブシステム、「サンプラー(試料採取装置)」にフォーカスし、その仕組みを詳しく紹介していく。【前編】では、初代はやぶさに採用されたサンプラーの仕組みを振り返る。小惑星イトカワの微粒子はどうやって採取されたのか。

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 初代はやぶさ(以下、初代)との共通点・違いは何なのか――。他ではあまり語られることのない「はやぶさ2」の機能・技術に迫る本連載。

 前回は、「はやぶさ2」の全体像を紹介したので、今回からは“サブシステム”に焦点を当てていく。まずは、主目的であるサンプルリターンに大きくかかわる、「サンプラー(試料採取装置)」についてだ。



ホーンだけじゃない! サンプラーの構成

 はやぶさシリーズの目的は、小惑星から表面物質(試料/サンプル)を採取して、地球に持ち帰ることである。これをサンプルリターンと呼ぶ(詳しくは、前回の記事を参照)。

初代はやぶさが持ち帰った小惑星イトカワの微粒子
初代はやぶさが持ち帰った小惑星イトカワの微粒子(©JAXA)

 この“採取する”部分を担っているのが、サンプラーと呼ばれるサブシステムである。普通の人工衛星や探査機にはない、かなり“特殊”な装置だ。

 ご存じの方もいるかもしれないが、初代の底面部分には、円筒形の物体が付いていた。これは「サンプラーホーン」と呼ばれるもので、サンプラーの一部である。サンプラーホーンは、外部に露出していて目立つため注目されやすいのだが、実は、本体内部には「プロジェクタ(射出装置)」「サンプルキャッチャー」「サンプルコンテナ」「搬送機構」といった、サンプラーを構成する装置や機構なども含まれていた。

 2014年度の打ち上げに向けて開発が進んでいる「はやぶさ2」のサンプラーは、基本的に、この初代の仕組みを踏襲している。ただし、サンプラーホーンの先端に“返し”が追加されていたり、サンプルキャッチャーの部屋数が増えていたりと改良点も幾つかある。この辺りの詳細については、次回【後編】で詳しくお伝えする。

小惑星探査機「はやぶさ2」のイメージ画像
小惑星探査機「はやぶさ2」のイメージ画像。底面から伸びているのがサンプラーホーン。見た目では初代との違いが全く分からない(©池下章裕)

 「はやぶさ2」プロジェクトで、このサンプラーの開発を担当するのは、宇宙航空研究開発機構(JAXA)/月・惑星探査プログラムグループ(JSPEC)の澤田弘崇氏である。今回、澤田氏に詳しい話を伺うことができたのだが、核心となる「はやぶさ2」の話に入る前に、初代の仕組みについておさらいしておきたい。ここで初代の仕組みをしっかりと押さえておけば、「はやぶさ2」での改良点もよりイメージしやすくなるはずだ。

初代はやぶさのサンプラーは汎用型

 初代のサンプラーは、弾丸(「プロジェクタイル」と呼ばれる)を小惑星表面に撃ち込んで、その衝撃で舞い上がった砂や岩の破片を回収する方式(弾丸方式)を採用している。どうしてこのような方式になったのだろうか?

 それは、初代が“未知の小惑星”に行かなければならなかったことに深く関係している。

 安直に考えれば、スコップのようなものでザクっと地表を掘ればよさそうに思える。しかし、この方法では小惑星表面が砂で覆われている場合にしか使えない。もし小惑星の表面が固い岩石ばかりだったら……。何も採取できないという最悪の結果に陥る可能性がある。既に探査機が訪れていて、あらかじめ小惑星の表面の様子が分かっているのであれば別だが、初代が向かった小惑星イトカワは正確な形すら不明であった。

 サンプルリターンの下準備として、別途もう1機、探査機を送るのでは、費用も時間も余計に掛かってしまい、現実的ではない。そのため、小惑星の表面が砂でも岩でも、どんな状態であっても確実に、そして1回のアタックでサンプルを取得できる方式を考えなければならなかった。しかも、初代の場合は厳しい重量制限があり、幾つもの方式を搭載する余裕はなかった……。「10kg以下」という制約の下で、小惑星の表面がどんな状態でもサンプルを回収できるようにするのは非常に難しい挑戦だったといえる。

 実は、この“弾丸方式”は、日本が独自に考案した非常にユニークなものである。他にも、掃除機の先端のような“ブラシ方式”、粘着物で絡め取る“トリモチ方式”など、多数のアイデアがあったのだが、検討に検討を重ね、最後まで残ったのが弾丸方式だった。

ブラシ方式 トリモチ方式 弾丸方式
砂だった場合
岩だった場合 × ×
技術的信頼性
表1 これらの方式には、それぞれメリット/デメリットがある。全部搭載できれば安心だが、重量やサイズの制限もあり、初代はやぶさでは1つに選択する必要があった

 弾丸方式の特徴は、前述のように、砂でも岩でもサンプルを採取できる高い“汎用性”にある。そして、さらに加えるならば、仕組みとしての“シンプルさ”も挙げられる。弾丸さえきちんと発射されれば、後はサンプルが勝手に上昇し、探査機の内部に取り込まれる。ロボットアームのような複雑な機構は不要なので、故障の可能性は低い。ポイントとなる弾丸の発射には、探査機や人工衛星のさまざまな場所で使われている、宇宙で最も信頼性の高い部品の1つである「火工品(火薬を使った作動部品)」を用いる。

 トレードオフやさまざまな可能性を考慮し、初代では弾丸方式が採用されたのだが、目的の小惑星の表面が砂で覆われている場合、他の方式の方がサンプルを多く採取できる可能性もある。

 それもあって、「はやぶさ2」では当初、トリモチ方式を追加することも検討。タッチダウンの際に、接地するホーン先端にトリモチ方式の機構を搭載し、弾丸方式と併用することが考えられていたのだが……、結局断念した。「新たな採取方式を加えることで、追加の試験や評価がたくさん必要になるため、今回は間に合わなかった。しかし、将来のサンプルリターンミッションのための研究開発は続けている」(澤田氏)。

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