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日系航空機メーカーは、主戦場のアジアで勝ち残れるか?再生請負人が見る製造業(6)(3/3 ページ)

企業再生請負人が製造業の各産業について、業界構造的な問題点と今後の指針を解説する本連載。今回はMRJをはじめとしたブームに沸く航空機業界について解説する。

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日系航空機メーカーの4つの障壁とは

 技術力の面では、日系航空機関連メーカーはグローバル競争の環境で見ても高い競争力を持つ。しかし、グローバルでの地位を本格的に確立していくためには、主に4つの課題を抱えているといえる。

開発の障壁

 日系航空機メーカーには、グローバルの航空サプライヤーの管理能力とその経験が不足しているように見られる。OEMメーカーとして自立するために、百戦錬磨のサプライヤーをオーガナイズする経験・能力をどのように身に付けるかということが課題だ。サプライヤーマネジメント能力の欠如は、膨大な開発コストの掛かる複雑な航空機プログラムにおいて、致命的な障壁になり得る。

生産の障壁

 アジアでの膨大な機材需要を想定した増産体制をどのように構築するかということは大きな課題だといえる。増産時にバリューチェーン上のボトルネックになり得るのは、構造設計領域である。構造設計領域は、労働集約型の工程となっており、関係する中堅・中小企業が数多く存在する。これらの構造設計領域の担い手をどう確保し、さらにうまく管理し生産性を改善できるかということには、グローバル企業ならではのノウハウが必要になる。こうした経験の乏しい日系航空機関連企業にとって、増産に耐え得る体制を構築できるかというのは今後の成長の障壁となり得る。

販売の障壁

 日系航空機OEMやサプライヤーが特に苦手とするのが、グローバルでの拡販である。同市場を主導する、ボーイングやエアバス、さらにはロールスロイスやGEは、世界各国でたくましく認可取得しながら市場を開拓し、契約交渉で有利な条件を勝ち取っている。日系企業もグローバルでこれらの企業と競っていくには、これらの交渉力が求められる。

メンテナンスの障壁

 機材需要の予測を見てみると、アジアで圧倒的に需要が拡大する。この需要の増加に合わせたメンテナンス体制を整えていく必要がある。本来であれば、収益獲得に向けたメンテナンス体制の強化が必要になるが、日系企業はメーカーのみならず商社もメンテナンス事業の強化には及び腰だ。メンテナンス事業は多くの労働力を必要とする他、安全リスクなども問われるためだ。しかし、このままでは、高い収益を確保できるメンテナンス事業は、欧米や中国の企業に持っていかれることになるだろう。メンテナンス事業にどう取り組むか、という戦略が必要になる。

再生請負人として考える4つの障壁に対する処方箋

 これらの日系航空機メーカーの課題に対して、どういう対策を取り得るだろうか。再生請負人として数々の航空関連業界企業の再生に携わってきた筆者にとって、それぞれの課題に対する対策を紹介する。

開発:サプライヤーマネジメント能力の構築が急務

 自動車の部品点数が約3万点とされるのに対し、航空機の部品点数は300万点以上とされており、その数は実に100倍以上となる。そのため関連するサプライヤー数は自動車の比ではないほど多く、これらのサプライヤーマネジメントが製品開発において大きなポイントとなる。

 このサプライヤーマネジメントは、経験の浅いチームで推進すると、ほぼ間違いなくミスや開発遅延の原因になり、結果的に無駄なコストが発生することになる。このような状況を打破するには、自社でサプライヤーマネジメント体制の構築を進める一方で、開発経験や能力の高い外部アドバイザーにプロジェクトマネジメントを業務委託することも選択の1つだ。これらを専門に扱う外部企業に、複雑なサプライヤーとの調整・交渉を統括してもらい、自社は得意分野に集中するという取り組み方が可能となる。

生産:構造設計領域での生産性改善には、企業の統廃合が必要

 構造設計領域は数多くの中堅・中小企業が業務を担うケースが多く存在する。しかし、耐久テストなど、各社が個別の努力で効率化し得る余地は既に限定的となっており、物理的にも多くの制約を受けることになる。これは今後の需要伸長に対する動きのボトルネックとなる可能性を示している。これらのことを背景に、海外では構造設計を担う企業の統合およびM&Aの動きが加速している。海外企業と競い合っていくには、日本においても同様に、これらの構造設計領域の担い手だった中堅・中小企業をどう企業体として強くし投資できる体制としていくかは大きな課題で、統廃合の動きが進む可能性もある。

販売:アジア地域のLCCへナローボディ拡販がカギ

 日系航空機メーカーにとって、大きく収益を拡大するには、エアアジア、セブパシフィックなどアジアに多数存在するLCC(Low Cost Carrier)をどう取り込むかがポイントだ。燃費効率と安全性を武器に、航空機や航空機部品をLCCにも積極的に販売していく必要がある。また、盲点になりがちな航空機リース会社への拡販も欠かせないものとなるだろう。

 強靭な販売体制の構築には、ターゲティングや営業進捗管理の見える化、そして高頻度でのモニタリングを実施していくことが求められる。モニタリングの過程では、しっかりとした指示出しやフィードバック、機動的な方針修正などを提案することが必要となる。

メンテナンス:アジア地域を中心としたMRO分野での再編

 アジアには数多くのメンテナンス企業が存在する。これらの領域は利益率がそれほど大きいビジネス領域ではない一方で、特定領域で寡占化ができれば多くの収益が見込めるビジネスである。アジアでは、エアライン、および機材・エンジンOEMメーカーなどが積極的にメンテナンス事業に乗り出し、収益獲得を進めている。そのため、M&Aも加速しているのが現状だ。日系企業についても先述したようなメンテナンスにおける戦略構築を進める一方で、自らがMRO体制を構築できないのであれば、M&Aを通じた体制強化を進めるべきだ。

筆者プロフィル

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上野正雄(うえの まさお)アリックスパートナーズ バイスプレジデント

プライスウォーターハウスクーパースなどを経て、アリックスパートナーズに入社。業績改善、M&A・統合支援、事業再生など15年間で約100プロジェクトを手掛けてきた。




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