モデルで作った仮想のクルマから色んなことが見えてきた!:モデルベース開発奮戦ちう(8)(3/3 ページ)
金融危機や量産チームへのレビューといった難問にぶつかりながらも何とかモデルベース開発を進めてきた京子たち三立精機の制御設計チーム。今度は、納入先の豊産自動車が行う、モデルを組み合わせた仮想のクルマによる試験に対応することになった。
報告と提案
後日行われた豊産自動車との会議で、私は今回のシミュレーション結果について報告した。そして、現状の仕様ではCVT∞の変速比の変化率の許容値を超えるため、対策として変速比変化率の低減を提案した。
現状の目標変速比は、目標燃費やドライバビリティなどさまざまな要素より決まっており、それを変更するには各種の検討が必要になってしまい安易には変更できません。しかしながら、コストと重量も重要な目標値なので、いったん持ち帰って検討し後日回答します。小野さん、それにしてもよく気が付きましたね。
山田課長の助言を参考に、テストパターンにシステムの変化点を反映したことがきっかけです。実車評価後にこの問題が判明していたら、試作評価のやり直しが発生して大変になっているところでした。
モデルの結合は大変だったけれど、最終的に豊産自動車にモデルベース開発の効果を示すことができた。私にとっても、格別にうれしいことだった。
さらなるモデルベース開発の御利益(仮想のクルマでここまで分かる)
豊産自動車の鈴木さんから、先日の会議での宿題の回答がメールで届いた。
目標変速比の変化率低減の件、単純に変速比変化率を制限するだけでは、やはり不都合があることが判明しました。そこで、豊産自動車でドライバビリティや燃費、エンジンECUのサプライヤでエンジン効率を検討した結果、変速比マップも変えることで各種の要求を満たしながら変速比の変化率制限を要求値内に収めるめどがつきました。エンジンECUのサプライヤが作成したSimulinkモデルをお渡ししますので、御社でシミュレーションモデルに組み込んでもらって詳細の確認をお願いします。
私は早速山田課長に報告することにした。
たった今、豊産自動車の鈴木さんからメールが入りまた。CVT∞の宿題の件、減速比変化率の制限のめどが立ったそうです!
そう、それは良かったじゃない。この件はこれで解決かしら?
それが、単純に変化率を制限するだけではいろいろな制約を満足できなかったらしく、変速比制御を変更するそうです。エンジンECUのサプライヤから変更後のモデルをいただけけるとのことです。
バンビーナの燃費向上に必要な変更部だったから、そうは簡単にはいかないってわけね。でもその割には今回の対策・検討は早かったわね。きっと各部のモデルを結合しシステム全体のシミュレーションができるようになったからかしら? 京子ちゃんが頑張ってモデルを結合できるようにした成果じゃないの。
前のめったかいがありました!
というわけでエンジンECUのサプライヤから提供してもらったモデルを組み込んでのテストを行うことになった(以下、次回に続く)。
執筆者プロフィール
JMAAB/今さら聞けないMBD委員会
JMAABのWebサイト http://jmaab.mathworks.jp/
モデルベース開発(MBD)を発展させるべく、自動車メーカーとサプライヤからなる団体『JMAAB』は13年前(2001年)に生まれました。このJMAABの10周年記念において、「MBDを分かりやすく伝えたい」という目的で発足したのが『いまさら聞けないMBD委員会』です。委員会メンバーが所属する10社でMBDを推進してきたエンジニアが協力し、これまでの経験や将来の夢を伝えるべく推敲を重ね、本連載は完成しました。皆さまのモノづくりの一助となれば幸いです。
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