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モデルで作った仮想のクルマから色んなことが見えてきた!モデルベース開発奮戦ちう(8)(2/3 ページ)

金融危機や量産チームへのレビューといった難問にぶつかりながらも何とかモデルベース開発を進めてきた京子たち三立精機の制御設計チーム。今度は、納入先の豊産自動車が行う、モデルを組み合わせた仮想のクルマによる試験に対応することになった。

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仮想のクルマで走るといろいろ見える(パソコンの中でクルマが走るといろいろ分かる)

 その一方で、私が着実に経験を積んでいたことを実感するタイミングもあった。

 ある日、車載電装開発部の会議室では進捗報告が行われていた。


京子

豊産自動車の車両モデルと、当社のCVT∞モデルの結合については、いろいろ問題もありましたが皆さまの協力を得て何とか動作するようになりました。現在は、詳細動作の検証中です。併せて、システム全体でのシミュレーションを通じてCVT∞の評価を行うためのテストパターン設計も開始しました。テスト項目は、CVT評価基準「S31415-926535」とモード燃費走行パターン「JC271828」から作成しますので、工数見積もりは約3人日となります。


山田課長

モデルの結合、ご苦労さまでした。モデルの結合で発生した課題と対処については、今後の標準化に生かすため報告書にしておいてください。それから京子ちゃん、テストパターン設計の件は、今回のCVT∞は初めて量産化するものなので既存の評価基準だけだとダメだと思うの。CVT∞の設計担当と打ち合わせて、新規開発の変更点による、これまでの評価と異なるモードが無いか、故障モード影響解析(FMEA)の観点から確認すべき項目の有無についても盛り込んでおいてちょうだい。同様に、車両も新規なのでいろいろと変更点があるはず。豊産自動車の鈴木さんに相談しておいて。


 私は、ルーチン化されている作業をモデルに入力できるようにするだけでいいと思っていた。でも、山田課長の指摘により、設計の変更点に対する懸案事項を盛り込んだテストパターンの設計が必要だということに気付くことができた。

京子

モデルベース開発のメリットは、実行可能モデルにより設計した傍から検証できることなので、テストパターンには変化点や懸案事項を反映することが重要なんですね。


 山田課長の指示に対応すべく、設計室で悩んでいる私を見掛けて大島さんが話しかけてきた。

大島

どうした難しい顔をして。何か困ったことでもあったのか?


京子

豊産自動車からもらった走行条件でシミュレーションをしていたら、目標変速比が大きく変化し設計許容値を超える場合が出てきたんです。結合モデルまでの動作は確認済みなんですけど、その走行条件からテストパターンを生成する際に誤りが無いかを疑っていて、今確認していたところなんです。


大島

どれどれ。ちょっと見せてもらえる?


 大島さんはしばしの間テストパターンを眺めていた。

大島

走行条件からのテストパターン生成におかしいところはなさそうだ。単位系もSIにそろえてあるし。問題になっているテストパターンは、走行条件から判断すると、減速時の回生協調部をテストするところじゃないかな。バンビーナの目標燃費を達成するために大幅に変更したところだから、豊産自動車に確認した方がいいかもしれない。


京子

それじゃ豊産自動車の鈴木さんに、起きている現象を伝えて解析を依頼してみます。


大島

現象を伝えるって?


京子

走行パターンNo.98067でシミュレーションすると、減速比変化率が設計許容値を超えることを連絡するつもりでなんすけど。


大島

せっかくモデルベース開発でシミュレーションできる環境を構築したんだから、テストパターンと出力波形も送って、豊産自動車側で確認してもらい解析結果を共有するというのはどうかな?


京子

さすが大島さん! モデルベース開発のメリットを把握してますね!!


大島

だろ!


 ちょっとドヤ顔の大島さん。

 翌日、豊産自動車の鈴木さんからメールが届いた。

 豊産自動車でも同一のテストパターンでシミュレーションを行ったところ、同じ結果がになることを確認したという。テストパターンには問題が無く、テストパターンの目的は回生制動時にバッテリーやブレーキ、CVTが協調して動作するのを確認することだと書かれていた。

 その結果について解析したところ、回生ブレーキを動作させる際にバッテリーの状態変化に合わせてCVTの減速比を制御し効率を高めるという、モード燃費を向上するため新規に追加した制御によって発生していることが分かったとのことだった。

 私は早速山田課長に報告して対応方法について相談した。

 そこで、ハードウェア関係の技術者を含めた会議を開催して、目標変速比の変化が設計許容値を超えることを報告した上で、対応方法について協議することになった。

 その結果提案された対応方法は以下の2つだった。

  1. CVT∞の油圧系変更
  2. 目標変速比の変化率低減

 (1)の油圧系変更の場合には、現状のシミュレーションで分かっている変化率最大値に対応するだけでも、油圧ポンプを含めた大幅な変更になってしまい、コスト増と重量増は免れないとのことだった。開発日程にも影響が出るので、次回の試作納入に間に合わなくなるという。

 これに対して、(2)の変速比変化率を低減する場合、システム全体に関わることもあって三立精機だけでその影響を見積もることはできない。しかし、油圧系を変更する方が規模が大きいと判断し、変速比変化率の低減を要求することになった。

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