アップルを訴えた島野製作所、争点となった特許とは:知財コンサルタントが教える業界事情(18)(4/4 ページ)
巨人アップルにかみついた――。米国アップルに対し、そのサプライヤーだった島野製作所が、独禁法違反と特許侵害で訴訟を提起したことが注目を集めている。係争のポイントとなった特許は何だったのか。知財の専門家である筆者が「特許関連情報」と「公開情報」を中心に訴訟の争点を解説する。
島野の特許に対抗するアップルの武器は?
アップルには接触端子/コネクタに関連性があると推察される登録特許が31件ありました。そのうち「島野製作所接触特許」に類似した図面のあるものは、図2に示したような特許4774439号だけでした※)。
※)特許データベースCKSWeb(検索日:2014年12月2日)、特許検索式:(出願人:アップル インコーポレイテッド)*(要約・クレーム:コネクタ)=31件
ここまでの調査結果から、どうやらアップルの電磁コネクタ「MagSafe」には、島野製作所の技術が寄与しているようだと分かりました。
当事者となったときどのような特許調査と分析が必要か?
それでは両社の保有する日本登録特許の比較をしてみましょう。島野製作所の接触端子特許「特許5280511号(親出願)および特許5449597号(分割による子出願)」の明細書に記載された図1および図2と、アップルの電磁コネクタ特許「特許4774439号」の明細書に記載された図8Aとを比較するため、両社の特許図面を並べて下記の図3に示します※)。
※)島野製作所特許(2件)の図1に記載された部品10の内部構成が図2に相当
ファミリー特許の調査
特許侵害訴訟を提起した相手先企業のファミリー特許を、公知資料として持ち出され、それが有効な情報だと判断された場合、訴訟を提起した側の明らかな特許調査不足となる可能性があります。
今回の場合、島野製作所は当然、アップルの保有する類似特許調査を済ませてから、特許侵害訴訟を提起したはずです。そのため、アップルの本拠である米国の特許の内容をUSPTO特許データベース※)で確認し、ファミリー特許の内容を商用特許データベースで、確認するという作業は当然行ったと見るべきでしょう。それぞれの特許明細書に記載された技術内容まで、詳細に確認していると思われます。
※)USPTO登録特許データベース、USPTO公開特許データベース
これらの情報から、訴訟における当事者企業は、裁判に挑む前段階で「相手企業の主張までも想定した机上演習」を行うことになります。そこには「相手側の主張をどう論破するかという試みが含まれる」ことが推察されます。
これらの情報、これらの視点から「今回の裁判における島野製作所保有の特許権に対する双方の主張」および「裁判所の判断」に注目してみてはいかがでしょうか。
特許の分析仕様・条件
本稿では、下記の分析条件で各社の動向を考察しました。特許データベースの使い方が分かれば、下記の条件検索パラメータを活用してご自身でも確認できます。
データベース
項目 | 内容 |
---|---|
日本特許 | CKSWeb(中央光学出版のご好意で試用しています) |
外国特許 | Espacenet(EPOの無料特許データベース) CPA Global Discover(日本技術貿易のご好意で試用しています) USPO登録特許データベース(無料) |
検索条件
項目 | 内容 |
---|---|
日本特許 | 登録特許検索 出願人:島野製作所(3件) 出願人:アップル インコーポレーテッド(31件) 出願人*要約・クレーム:アップル インコーポレーテッド*コネクタ(1件) |
外国特許 | Applicantに注目した特許検索 PA(CPA Global Discover)/Applicant(Espacenet):Apple PA(CPA Global Discover)/Applicant(Espacenet):Shimano Manufacturing |
筆者紹介
菅田正夫(すがた まさお) 知財コンサルタント&アナリスト (元)キヤノン株式会社
sugata.masao[at]tbz.t-com.ne.jp
1949年、神奈川県生まれ。1976年東京工業大学大学院 理工学研究科 化学工学専攻修了(工学修士)。
1976年キヤノン株式会社中央研究所入社。上流系技術開発(a-Si系薄膜、a-Si-TFT-LCD、薄膜材料〔例:インクジェット用〕など)に従事後、技術企画部門(海外の技術開発動向調査など)をへて、知的財産法務本部 特許・技術動向分析室室長(部長職)など、技術開発戦略部門を歴任。技術開発成果については、国際学会/論文/特許出願〔日本、米国、欧州各国〕で公表。企業研究会セミナー、東京工業大学/大学院/社会人教育セミナー、東京理科大学大学院などにて講師を担当。2009年キヤノン株式会社を定年退職。
知的財産権のリサーチ・コンサルティングやセミナー業務に従事する傍ら、「特許情報までも活用した企業活動の調査・分析」に取り組む。
本連載に関連する寄稿:
2005年『BRI会報 正月号 視点』
2010年「企業活動における知財マネージメントの重要性−クローズドとオープンの観点から−」『赤門マネジメント・レビュー』9(6) 405-435
おことわり
本稿の著作権は筆者に帰属いたします。引用・転載を希望される場合は編集部までお問い合わせください。
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