メッシュネットワークをキーにIoTへ進む「Thread Group」:IoT観測所(3)(2/2 ページ)
いわゆる「IoT」は1社だけで完結しないため、各社は業界団体に加入、あるいは組織して対応しようとしている。今回はメッシュネットワークをキーに、白物家電や産業界からの加入者も集まる「Thread Group」を取り上げる。
一般普及が進まないメッシュネットワーク
メッシュネットワークそのものはかなり昔からアイデアが出ており、既に規格は乱立気味だ。一番有名なのがZigBeeで、2002年に設立されたZigBee Allianceが規格制定を担っている。物理層にはIEEE802.15.4を利用し、その上でZigBeeの基本仕様(Base Specification)と、さまざまなプロファイルが定められている。
ただ、Zigbeeそのものの立ち上がりはそれほど芳しくない。2012年の数字で言えば、400以上の企業が600以上の対応製品を出しているとしているが、つまり平均して1企業あたり1.5個しか製品を出していないという意味でもあり、これは多いとはちょっと言い難い。
理由は2つある。1つはコスト削減に時間がかかったこと。ZigBeeは、家庭内の照明管理などをターゲットの1つにしているが、このためには電球1個1個がZigBeeのエンドノードにならなければいけない。昨今はLED電球の普及などでちょっと状況が変わってきたが、その前は要するに普通の白熱灯・蛍光灯で、1個100円もしないものである。これがネットワークで制御できるといっても、1000円にしたら売れないのは当然だ。なのでZigBeeのエンドノードを1円とは言わないまでも10円のオーダーに抑えないと商品化は難しい訳だが、なかなかこれには時間が掛かった。
もう1つは競合する規格がいくつかあったことだ。一番有力なのはZ-Waveで、実際ZigBeeと市場の取り合いを行っているし、(利用例はあまりないが)IEEE 802.11sというメッシュネットワークの標準規格もある。ちょっと変わったところではOLPCプロジェクト(安価なノートPC提供を目的とするプロジェクト)が、自身の「XO-1」ラップトップ同士をつなぐのに「OLTP-Mesh」なるプロトコルを利用している。
他にも幾つか競合規格はあるが、一番大きいのはZigbeeとZ-Waveのシェア争いで、そもそも大きくないマーケットを取り合ったのが、普及の遅れた要因の1つであるのは疑う余地がない。
Thread GroupにとってのIoT
Thread Groupはというと、こうしたメッシュネットワークをIoTの分野に生かしたい、という企業が集まって形成された団体である。ただし、既存のZigBeeやZ-Waveを拡張したものではなく、IEEE 802.15.4の上に新規のThreadプロトコルを搭載する形になる(Photo01)。
Photo01 ○がホスト、五角形がルータ、□がボーダールータ(Border Router)とされる。ZigBeeで言うところのCoordinatorの役割をBorder Routerが果たすのか、そもそもCoordinatorにあたるものが存在しないのかは不明。また上の方には、複数のルータにつながるホストもあり、トポロジーは確かにZigBeeともZ-Waveとも異なる
Thread Groupのプレスリリース(Press Release:Introducing Thread: A New Wireless Networking Protocol for the Home)によれば、既存のIEEE 802.15.4対応製品はファームウェアの手直しだけでThreadに対応できるだろうとしており、ZigBeeやZ-Waveのプロトコルスタックを抜いて、そこにThreadのプロトコルスタックを搭載する形になるだろう。
ちなみにベースとなるのはIPであるが、TCPは使わずUDPのみで、またベースは6LoWPANとなっている(Photo02)。現在はまだ仕様などの一般公開はされていないが、Freescale SemiconductorはThreadのβ版ソフトウェアを開発完了し、同社のKinetis MCUとあわせた形での開発キット提供を準備している(フリースケール、次世代のIoT製品の開発着手を容易にするThreadベータ開発プログラムの開発を完了)。
またThread Group自身も2014年10月からメンバー企業の募集を開始しており、原稿執筆時点で創立メンバーに加えて、gridconnect、SALTO、California Eastern laboratories、PROXIMETRYの名前が確認できる。
では、IoTはThread Groupが推し進めるように、メッシュネットワークが主体なのか?というと、もちろんそんな訳はない。
(以下次回)
関連キーワード
Internet of Things | メッシュネットワーク | ZigBee | IoT観測所 | Z-Wave | IEEE 802.15.4 | Open Interconnect Consortium
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- IoT観測所(2):「IoT」団体はなぜ乱立するのか
「IoT(Internet of Things)」をうたう業界団体がここ数年で複数現れて、さまざまなプロモーションや標準化を始めているがそれはなぜか。Freescale Semiconductorの製品ラインアップと「Open Interconnect Consortium(OIC)」参加企業の顔ぶれから考察する。 - IoT観測所(1):そもそもIoTとは何か?「2014年のIoT」は何を意味するかを理解する
IoT(Internet of Things)という言葉は既に広く使われているが、概念自体は目新しいものではない。IoTで何かが変わった訳ではなく、“IoT”という言葉が一般化した今、それを活用するための環境が整ったというべきだ。IoTのそもそもと、その現状について、解説する。