デンソーのCAE活用方針は「広めよう・高めよう・組み込もう」:CAE事例(2/2 ページ)
アンシス・ジャパンの自動車分野とエレクトロニクス分野向けのユーザーカンファレンスで、デンソーの技術開発センターでデジタル・エンジニアリング室長を務める赤池茂氏が基調講演を行った。赤池氏によれば、デンソーにおけるCAE活用の方針は、「広めよう・高めよう・組み込もう」という3つの言葉が基礎になっているという。
高めよう
「高めよう」では、CAEツールのライセンス数を増やしつつも、使用中のCAEツールのベンチマークを定期的に行うことが重要だとした。赤池氏は、「1990〜2000年にかけて、HPC(ハイパフォーマンスコンピューティング)の性能向上もあって、CAEツールのライセンス数が一気に増えた。だがCAEツールに掛けられる予算は、研究開発予算と同期している。そして研究開発予算は、企業の売上高が伸びていれば増え、売上高が落ちれば減るものだ。CAEツールも、売上高が伸びればライセンス数増や新規採用が可能になり、売上高が落ちれば効率化やライセンス数のスリム化が求められる」と語る。
同氏が強調したのは、「ダウンタームの際には、効率化やライセンス数のスリム化が認められやすい社内環境にあるので、似たようなCAEツールの1本化や、効率のより良いCAEツールへの置き換えを進めるいい機会になる」ということだ。
例えば、構造系の解析ツールでは、2009年から2年間かけて、ANSYSとそれまで長年利用してきた競合他社のツールをベンチマークしたという。その結果、ANSYSがデンソーの要求にほとんど応えるとともに、競合他社のツールを使い続けてきたエンジニアの多くがANSYSを望んだこともあり、2011年からANSYSが採用されることになった。
赤池氏は「それでも『一度採用が決まるとサポートがおろそかになるCAEツールベンダーがほとんどだが大丈夫か?』という声も多かった。しかし、私個人が信頼している情報筋への確認や、CAEツールベンダーの担当者が私の部署に訪問する頻度の統計から導き出した情報から、ANSYSで大丈夫と判断している」と説明する。
組み込もう
「組み込もう」は、デンソー社内に加えて、顧客やサプライヤ、自動車業界、社会全体などの関係の中で、CAEにどのような価値を持たせるかという活動が中心になる。
現在、電気自動車やハイブリッド車の市場規模が拡大し、マルチフィジックス解析に対する需要も高まり、材料開発にもCAEが適用されるようになっている。つまり、デンソー単独ではカバーできないことがどんどん増えている。こういった状況を打開するために打ち出した方針が、大学や研究機関とのコラボレーションやCAEツールベンダーとのアライアンスから生まれたCAEによる「世界初の技術」の実現である。
例えば、オルタネータのように小さなパーツ(電子部品)と大きなパーツ(モーター)から構成される解析対象について、同時にどちらの状態もしっかり解析できるような大規模解析や、リチウムイオン電池の温度変化を一定範囲内に収めるための熱流体解析などでは、先述の体制が活用された。
今後は、流体、電磁気、振動といった複数の物理現象を一括で解析できる「1D-3Dモデルベース協調解析」や、モデルベースシステムズエンジニアリング(MBSE)などへの展開拡大を進める考えだ。
またデンソーの製品開発でCAEを活用する範囲が拡大するのに合わせて、CAE関連の社内体制も変更していくという。現時点では、赤池氏の所属するデジタル・エンジニアリング室がCAEの技術戦略立案、先進技術の研究、技術開発、導入/サポートを担当しているが、これらのうち技術開発の一部と導入/サポートは、子会社のデンソーテクノに移管していく考えだ。また、デンソーテクノが行っている受託解析業務の一部を、ベトナム法人のDENSO MANUFACTURING VEITNAM(DMVN)に移管し、デンソーテクノがより高レベルな業務を担当するようにする方針だ。
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