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押さえておきたい交渉術の勘どころ(その1)レイコ先生の「明日から使える! コミュニケーションスキル」(7)(3/3 ページ)

できれば避けたいものというネガティブなイメージがある「交渉」。だがコミュニケーション技法「交渉術」を身に付けておくことが相手との対立を乗り越えるために重要なのだ。ビジネスにおける交渉術の基礎について解説する。

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現場対応はダメ、交渉は準備が何よりも大切

 「交渉が好きです!」と胸は張って言える人はよいのですが、そんな人はなかなかいないでしょう。交渉をしなければならない立場になると「交渉が上手くいかなかったらどうしよう?」「相手が無茶なことを言ってきたらどうしよう?」とネガティブなイメージばかりが浮かんできて、交渉について考えることが嫌になってしまうのが普通です。そして、最終的には「アレコレ考えても始まらない。どうなるかは分からないから、現場対応で何とかしよう!」なんてことになりがちです。

 残念ながら、このような態度で臨んだ交渉のほとんどが上手くいかないのは明らかです。なぜなら、何も準備をしないで交渉に臨むのは、練習をしないでスポーツの試合に臨むのと同じだからです。スポーツの世界では、しっかりした練習(準備)があるからこそ、試合で力を発揮できるように、交渉でも準備をしっかりとするからこそ、交渉の現場でしっかりとした対応ができるようになるのです。交渉が上手くいくかどうかのカギは準備にあるといっても過言ではありません。

 交渉の準備といっても、やるべきことが10や20もあるわけではありません。以下の3つの点についてしっかりと考えておくだけで、「こんなはずじゃなかった」と交渉が終わった後に後悔することを防げるようになりますので、ぜひ覚えておきましょう。

  1. 交渉の目的
  2. 交渉のターゲット
  3. 合意できない場合の代替案(BATNA)

<1. 交渉の目的>

 交渉の目的とは「交渉先に実現したいゴールをはっきり見せる」ということです。例えば、ある会社と協業する場合、より有利な条件で合意することが交渉の目的ではありません。協業によって「自社のサービスを強化する」や「新たな市場を開拓する」といったことが交渉の目的となります。このように中長期的な視点で、交渉の先に実現したいゴールをしっかりと設定することで、一貫性を保ちながら交渉ができるようになります。上記の例で言うならば、いくら有利な条件で合意できたとしても、そもそも協業によって自社のサービスの強化や新たな市場を開拓することができなければ意味がないのです。

<2. 交渉のターゲット>

 交渉におけるターゲットとは、交渉で最初に提示する「提示条件」と、ギリギリ合意が可能な「譲歩条件」を決定することです。提示条件は自社にとっての最高な条件、譲歩条件は最低な条件ということです。条件は、交渉の内容によって変わってきますが、販売価格や販売個数などが多いでしょう。

 ターゲットを決める上で注意をしなければならないのは、譲歩条件は自社にとって最低の条件であるため、それを「落としどころ」と勘違いしないことです。譲歩条件を落としどころだと思い、交渉を続けていると、相手からの圧力に屈してしまい、最終的に譲歩条件で合意することになってしまうことがよくあります。提示条件を相手から拒まれた場合は、図1にあるように、双方にとって合意可能なオプションを考えて交渉を「横」に広げていくようにします。

図1
図1 合意可能なオプションを考えて横軸へと交渉を広げていく

 例えば、価格について提示条件を断れた場合、価格は提示条件のままで、サポートや送料を無償にするなどオプションを付加することで合意できる道を探していきます。価格だけにとらわれてしまうと、売り手はより高く売ることを目指し、買い手はより安く買うことを目指すため、売り手と買い手の利害はどうしても対立してしまいます。交渉とは対立を乗り越えるためのコミュニケーションですので、表面化している対立に目を向けるのではなく、潜在的に隠れている双方が合意可能な選択肢(オプション)を探っていくことが大切なのです。

<3. 合意できない場合の代替案(BATNA)>

 交渉が決裂して合意できない場合の代替案のことを「BATNA(Best Alternative to a Negotiated Agreement:バトナ)」と呼びます。BATNAを準備することの最大のメリットは「余裕ができる」ということです。「交渉が決裂しても、最悪BATNAを実行すればよい」という思いは、交渉担当者の気持ちに余裕を生み出します。それにより、交渉の現場で常に冷静な判断ができるようになります。既に述べたように、交渉の現場では、その場の雰囲気や感情に流されてしまい冷静な判断ができなくなる傾向があります。交渉の目的やターゲットをしっかりと決めていても、長引く交渉の中でジリジリと追い詰められていって最終的に自社にとって不利な合意をしてしまう危険性はどんな優秀な交渉担当者にあります。BATNAは最悪の結果に陥らないための最後の砦のようなものですので、交渉に臨む際は、必ずBATNAを決めてから臨むようにしましょう。

 今回は、ビジネスにおける交渉術の基礎について解説しました。交渉は、専門家だけに必要とされるプロフェッショナルなスキルでありません。ビジネスの現場では、大きなことから小さいことまで、日々、交渉が発生しますので、誰しもに求められるベーシックなスキルなのです。今回、解説した交渉における人間心理への理解としっかりとした準備があれば、交渉の現場で相手にごまかされたり、圧力に屈したりすることなく、交渉(議論)を続けられるようになります。

 次回は「こんな時はどうする?」という視点で、交渉におけるさまざま場面での対応方法について解説します。

参考文献

  • 「戦略的交渉入門」(田村次郎・隅田浩司 著 日経文庫)
  • 「ハーバード流 交渉術」(フィッシャー&ユーリー 著 知的生きかた文庫)
  • 「ビジュアル解説 交渉額入門」(田村次郎・一色正彦・隅田浩司 著 日本経済新聞出版社)

Profile

小山新太(こやまあらた)

MPA所属 中小企業診断士。販売促進やマーケティング、コミュニケーションスキルを専門とし、中小企業支援やセミナー講師などを行っている。



MPAについて

「MPA」は総勢70人以上の中小企業診断士の集団です。MPAとは、Mission(使命感を持って)・Passion(情熱的に)・Action(行動する)の頭文字を取ったもので、理念をそのまま名称にしています。「中小零細企業を元気にする!」という強い使命感を持ったメンバーが、中小零細企業とその社長、社員のために情熱を持って接し、しっかりコミュニケーションを取りながら実際に行動しています。

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