「アメーバ経営」とは何か:いまさら聞けない 「アメーバ経営」入門(1)(2/2 ページ)
グローバル競争の激化により多くの日系製造業が苦しむ中、にわかに注目を浴びているのが「アメーバ経営」だ。京セラをグローバル企業に押し上げ、会社更生法適用となったJALを復活させた原動力は何だったのか。本連載では、「アメーバ経営とは何か」を解説するとともに、その効果を示す事例としてJAL整備工場での変化について紹介する。第1回となる今回は「アメーバ経営」そのものを紹介する。
アメーバ経営の運用
それでは次に、アメーバ経営の運用について説明します。アメーバ経営を導入すると、製造部門でも利益が見えるようになります。メーカーはモノを作ることによって利益が出るから、メーカーとして存在しています。だから、モノを作っているところでも利益を考え、売るところでももちろん利益を考える必要があります。そこで各部門の採算を明確にするために、「社内売買」という独特の仕組みを用います。
社内売買とは、各アメーバを1つの会社のように位置付け、アメーバ間で製品などが動くときは、社内売買があったと見なす仕組みのことです。アメーバの総生産高(稼いだお金)は、社内の別のアメーバに販売する「社内売」と、社外に販売する「社外出荷」の合計から、「社内買」を引いたものです。この総生産高から、製造に掛かった経費(使ったお金)などを引いていけば差引収益(もうけたお金)が分かります。
一方、人件費は経費に含まれません。その理由は、組織を小さく分けているため、個人の人件費の開示につながってしまうからです。人件費が分かってしまうと、職場の雰囲気を悪くすることになりかねません。その代わりに、差引収益(もうけたお金)を総時間(メンバー全員が働いた時間)で割って算出する「時間当り付加価値」という指標を用いて利益の状況をつかみます。また、人件費は各アメーバ内において自らコントロールできません。そのため、各アメーバは時間を減らす(時間当り付加価値を上げる=生産性を上げる)ことで利益を増やす努力をします。
アメーバ経営では事前に決められた各部門の年間の目標数値を達成することが求められます。この全社的な年間目標数値のことを「マスタープラン」と呼んでいます。
マスタープランは経営者が「会社をこのくらい成長させたい」という方針を決めるところからスタートし、部門長クラスが現場リーダーの意向を丁寧に吸い上げ、納得と了解を得ながら経営陣の押し付けにならないように策定していきます。この目標はアメーバリーダーに課された必達目標であり、月が始まる前に、1カ月でどれだけの数字を達成していくか、採算表の各項目の数字を決め、書き込んでいきます。この数字のことを「予定」といいます。
ところが、突然の出費があるなど「予定」した範囲内に経費が収まらないときもあるでしょう。そうした誤差を調整していくには、「予定」と実際の収入・出費である「実績」の「差異」を小まめにチェックし、その原因と対策を検討するとともに、差異を挽回する方策を考え、実行していかなければなりません。マスタープランの達成に向け、リーダーは毎月、自ら予定を立て、メンバーの知恵を結集し、目標をクリアしていきます。アメーバを構成するリーダーとメンバーは、その数字を見ながらPDCAを繰り返し、目標達成に向けて創意工夫を行うことができます。
アメーバ経営では、各組織階層で採算表に基づく会議が行われます。会議では各部門の経営状況と今後の見通しについて数字をベースに報告します。例えば、社長と幹部が一堂に会する会議、事業部長が中心に各部長と行う会議、部長が課長などを集めて行う会議、課長が現場リーダーを集めて行う会議、そしてリーダーがメンバーと行うミーティングなどです。各階層での会議を通じ、経営トップから現場までが情報を共有しベクトルを合わせます。特筆すべきことは、全ての階層で採算表という統一指標を用い、利益を中心に経営に関する議論を行うことです。このことが、京セラが創立以来、激動の環境下でも一度も赤字となることなく、成長発展してきた原動力になったものです。
最後に
今回は「アメーバ経営とは何か」をテーマに、アメーバ経営の特徴や運用について紹介してきました。次回は「アメーバ経営の3つの目的」について解説します。
⇒次回(第2回)はこちら
⇒連載「いまさら聞けない 『アメーバ経営』入門」バックナンバー
筆者プロフィル
堀直樹(ほり なおき) KCCSマネジメントコンサルティング 経営企画室
1985年京セラ入社、1993年にコンサルティング部門に異動。社外へのアメーバ経営コンサルティング事業に従事し、コンサルタントとして、多数の企業のアメーバ経営導入に携わる。これまでに約50社の企業へアメーバ経営の導入コンサルティングを行う。2002年神戸大学MBA取得。
アメーバ経営学術研究会の事務局として、アメーバ経営の学術的な見地からの研究に携わる。現在は、コンサルティング新サービスの開発、コンサルタント育成支援などアメーバ経営の啓蒙活動に携わっている。
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