8年ぶり19回目――クーデターに慣れるタイ、タイ国軍の正体は政党!?:知っておきたいASEAN事情(21)(1/2 ページ)
軍事クーデターによる政変の影響を受けるタイ。製造業が多く進出しASEANのハブ的な役割を担うタイは今後どのような変化を遂げるのか。ASEAN事情に詳しい筆者が解説する。
製造業にとって役立つASEANの現状を紹介してきた連載「知っておきたいASEAN事情」ですが、今回は軍事クーデターにより環境変化があったタイについて取り上げます。
既に本連載ではタイについて
- 第2回「ASEANの自動車産業大国 “ほほえみの国”タイのカントリーリスク」
- 第5回「緊急寄稿:洪水被害のタイ・バンコクのいまとこれから」
- 第8回「洪水が明けて――今年の雨季をタイ現地企業はどう乗り越えるか?」
- 第12回「チャイナプラスワン戦略におけるタイ、変化の兆しが」
- 第14回「チャイナプラスワンだけじゃない! 『タイプラスワン戦略』をご存じですか?」
と合計5回も取り上げています。もちろん取り上げた国としては一番多いものとなります。
ほぼ定期的にタイという国を見て、さらに取り上げてきた中で、軍事クーデターがどのような影響をもたらしているのでしょうか。今回はこの変化を紹介しようと思います。
クーデターの発生
2014年5月22日午後にタイ国軍による軍事クーデターが発生しました。これは、タイを立憲君主制へ移行させた1932年の立憲革命以来、19回目のクーデターになります。2000年以降でも、2006年、2010年に続く3回目のクーデターです。
Wikipediaによれば、クーデターは以下のことを意味するといいます。
クーデター(仏: coup d'État)とは一般に暴力的な手段の行使によって引き起こされる政変を言う。
フランス語で「国家に対する一撃(攻撃)」を意味し、発音は フランス語: [ku deta] (ク・デタ) 、英語: [ˌkuːdeɪˈtɑː](クーデイター)である。日本語では「クーデタ」や「クー・デ・タ」と表記することもある。英語では単に「coup(クー)」と表記されることが多い。(原文ママ)
クーデター直後、日本を含め欧米のメディアでは、民主主義に逆行する行為であるとタイ国軍を非難する論調で報道しました。ところがクーデターから3カ月が経過した現在、こうした報道はほとんど見かけなくなりました。この3カ月間、プラユット軍政下では、絶対的権力を行使するために国家治安評議会(NCPO)が設立され、既存政党を徹底的に排除してきました。つまり、欧米のメディアが危惧していた反民主主義的な行為が堂々と行われてきたのですが……。
この1年近く、与党(タクシン派)と野党(半タクシン派)で繰り返されてきた「子どものけんか」に辟易(へきえき)してきた一般国民にとって、今回の軍事クーデターはむしろ好意的に受け取られました。特に、クーデター直後に、バンコク市内の治安が劇的に回復したことが貢献しているように感じます。それまでライフルや手りゅう弾といった戦場まがいの武器が持ち込まれていたのが異常だったわけですが、それでも治安は改善したと感じます。
クーデター直後に発令された外出禁止令は、2014年6月のFIFAワールドカップ開幕と同時に解除されました。サッカーはタイで最もポピュラーなスポーツであり、多くのタイ人が4年に1回のワールドカップを楽しみにしています(賭博の対象だからともいえます。もちろん非合法です)。タイ人にとってワールドカップ観戦の楽しみは近所のスポーツバーで大騒ぎすることです。時差の関係で、タイ時間午後11時以降に行われる試合が観戦できないとなると、国民の反感を買うことは明白でした。そのため急きょ、外出禁止令が解除されたといわれています。
年中行事のように繰り返される軍事クーデター、そして現地タイ人の対応を見ると、日本人の考えるクーデターとは少し異なることに気付くのではないでしょうか。その鍵を解くのが「“タイ国軍は政党”論」です。
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