緊急寄稿:洪水被害のタイ・バンコクのいまとこれから:知っておきたいASEAN事情(5)(1/2 ページ)
日系企業が多数進出しているタイで発生した洪水。連載「知っておきたいASEAN事情」の著者・栗田氏が現地の状況をレポート。
今回は、特別編として、洪水被害に見舞われているタイ・バンコクから現地レポートをお届けします。
タイを訪れてみると……
2011年10月27日、外務省はバンコク、ならびに周辺地域に対して、「渡航の是非検討」から「渡航の延期」に危険勧告を引き上げしました。
筆者は同10月26日早朝着のフライトでバンコク・スワナプーム空港に到着しました。いままで、飛行機には何百回も搭乗しているのですが、こんなにガラガラのフライトは初めてでした。羽田空港チェックインカウンターでの説明では、前日&当日にキャンセルが続出したとのことです。
原因は予測ミス?
さて、今回の洪水についてですが、降雨量予測の読み間違えが原因といわれています。通常、タイの雨季は10月後半に終わり、11月から数カ月乾季が訪れます。例年、この乾季に向けた灌漑(かんがい)用水として、チャオプラヤ川*上流のダムで貯水しています。
*ちなみに、日本ではメナム川と呼ばれることもありますが、「メナム」はタイ語で川の意味です。ナム川を日本語訳すると「川川」となってしまいます。正しい名称は「メナム・チャオプラヤ」です。
今年(2011年)の雨季、チャオプラヤ川上流の地域では、例年より降水量が多く、雨季が終わる前に、ダムの貯水量が限界になってしまいました。そこでやむなく放水した大量の水が、下流地域の降雨と重なり、今回の洪水災害を引き起こしたといわれています。もっと早めに判断し、少しずつ放水を行っていれば、このような事態にはならなかったかもしれません。
バンコクは広大な平野の南端に位置しています。この平野の高低差はたった25mしかありません。そして、この平野を南北に流れるのがチャオプラヤ川です。先月中旬に上流のダムから放たれた大量の水は、数週間をかけバンコク北部のアユタヤ県に到達し、そこからまた数週間をかけて首都バンコクに到達しました。今回の洪水が非常にゆっくりした速度で被害エリアを拡大していったのは、この平らな土地形状に起因するものです。現在、冠水している地域の水が引くのに1カ月は必要とされているのも同じ理由からです。日本の国土からは想像できない現象です。
日本の報道と現地の状況の間にはかなりの温度差が
日本のTVや新聞では、バンコク中心部のチャオプラヤ川沿いで洪水が発生していると伝えています。しかし正確には、冠水している地域はバンコクの中心部ではありません。11月29日の大潮で被害地域は広がっていますが、まだビジネスの中心部は「無事」です。日本人をはじめ、多くの外国人が居住しているスクンビット地区も「無事」です。2010年5月の反政府デモの時もそうだったのですが、日本のマスメディアの報道内容と現地の状況の間には、かなりの温度差があるようです。これはタイに在留する日本人のごく一般的な印象です。
ミネラルウォーターがサービス品に?
しかし、水害の発生していないバンコク中心部でも、さまざまな問題が発生しています。最も大きな問題は飲料水不足とされています。というのも、水質が硬水であるため、水道水が飲用にできないタイでは、ミネラルウォーターが一般的に飲まれているからです。今回の洪水では、そのミネラルウォーター製造工場の多くが被災し、国産ミネラルウォーターが品不足になり、さらに洪水に備えた買いだめが発生しました。インスタント食品も買いだめされ、一時、スーパーマーケットの商品棚はほぼカラになってしまいました。
しかし、同じミネラルウォーターでも、高額な輸入品(エビアン、ヴォルビック)は多くが売れ残っています。また、ジュース類、炭酸飲料は豊富にあり、実は飲用の水分としてはあまり深刻な状況ではありません。筆者の会社が契約しているガソリンスタンドでは、500バーツの給油ごとにミネラルウォーターを1本くれます。先日も1500バーツ分を給油したところ、ミネラルウォーターを3本くれました。しかし、併設されているコンビニエンスストアではミネラルウォーターが品切れしている状態で、どこかおかしな状況です。
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