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ハイブリッドレースカーが火花を散らす、今WECがアツイ!今井優杏のエコカー☆進化論(12)(4/5 ページ)

F1と並んで、現在注目を集めている自動車レースの世界選手権がある。2012年から始まったFIA世界耐久選手権(WEC)だ。今回は、ハイブリッドレースカーだけが参加できるトップカテゴリーの「LMP1-H」に参戦しているトヨタ自動車を中心に、WECの魅力をお伝えしよう。

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なぜ今年のトヨタは速いのか

 じゃ、なんで今年のトヨタは速いのか。

 それにはレギュレーション(競技規定)の変更が大きく関わっていました。その一部を紹介しましょう。

 今年、トヨタが実戦投入したニューマシンTS040 HYBRID。

 搭載するハイブリッドシステムは、減速時の運動エネルギーを電気エネルギーに変換して蓄電し、加速時にはその電気エネルギーでモーターを動かし車輪を駆動します。

 そしてその駆動こそがミソ。TS040 HYBRIDは四輪駆動なのです。モーター/ジェネレーターユニット(MGU)をフロントにも搭載し、従来マシンの「TS030 HYBRID」にも搭載していたリヤのエンジン+MGUと合わせて四輪駆動になりました。

「TS040 HYBRID」のシステム構成
「TS040 HYBRID」のシステム構成(クリックで拡大) 出典:トヨタ自動車

 いやだったらもっと早くから四駆にしときゃよかったんじゃん、となりますが、昨年までは競技規定で「エネルギーの回生および力行(りきこう)は前輪および後輪のみ」とされていたのです。ですから、昨年までの参戦車両であるTS030 HYBRIDはリヤにのみMGUを搭載していたのです。

 システム上、リヤ駆動のハイブリッドシステムは制御がとても難しいのだとか。実際、ライバルのアウディはフロントにMGUをレイアウトしています。しかしトヨタには、あえて制御の難しいリアMGUを選択することで技術を磨くという目的もありました。

 四輪駆動になった今年からはまさに文字通り起死回生、面目躍如の大快進撃です。WEC参戦当初からトヨタが目指していたのはこの四輪駆動のレースカーでした。これまでレギュレーションに阻まれていたシステムを満を持して投入できたことが、今年の好調の理由と言っていいでしょう。

 これ以外にも、昨年まで行われていたLMP1のエンジン排気量制限(自然吸気エンジン3.4l、過給機ガソリンエンジンは2l、ディーゼルエンジンは3.7l)+吸気リストリクターによる出力制限が廃止され、今年からは1周あたりの燃料流量制限に変更されました。

 昨年までは、リストリクターで吸気を削られる分、リッチめに燃料を噴射する必要があったのですが、今年は真逆。限られた燃料でいかに馬力を出すか。「これは時代のトレンドにも適合し、競技として正しい形に落ち着いた」と、トヨタ・レーシングでハイブリッドプロジェクトリーダーを務める村田久武氏も述べています。

 ガソリンの流量制限はありますが、その代わりにエンジンの排気量規制は廃止されました。だからと言って単純に速さのためにデカいエンジンを積めばイイというものでもありません。だって肝心の燃費が悪くなっては元も子もないからです。

 そこで力を発揮したのが、2013年までのシーズンでも磨きに磨いてきたガソリンエンジンそのものの素性の良さ(トヨタ・レーシングの公式表現によりますと「素肌美人の超軽量・コンパクト・高効率エンジン」だそうで・笑)。

 ハイブリッドカーはとにかくモーター走行域が話題になって、エンジン自体はないがしろにされがちなのです。しかし実際の走行データによれば、レース中におけるモーター走行領域はわずか5%。それ以外の95%でエンジン走行をしているのです。

 TS030 HYBRIDに搭載されているのはポート噴射の自然吸気V型8気筒エンジン。驚くことに、なんら特別なモノを加えてない、フツーのエンジンだそう。ただし、細かいことでいえば、ポートの削りなどで形状を最適化させたり、燃焼室の壁温を最適化してノックを抑制したり高圧縮比化に取り組んだりしてきました。

「TS040 HYBRID」の自然吸気V型8気筒エンジン
「TS040 HYBRID」の自然吸気V型8気筒エンジン(クリックで拡大) 出典:トヨタ自動車

 結果、TS030 HYBRIDのエンジンは、重量105kgとF1並みの軽量で、圧縮比は17(これはガソリンエンジンとしては驚異的な数字で、なんとアクアを上回っています!)、馬力は570psで熱効率は40.3%という仕上がりでした。

 今年のTS040 HYBRIDでは、同じエンジンの出力を少し抑え520psとしていますが、これはモーターのアシスト量を増加させたため。レギュレーションにおけるシステムトータル出力は、2013年も2014年も変わらず1000psまでという制限があります。モーターのアシストに使えるエネルギー回生量の上限は、2014年から1周当たり最大8Mジュールまで増えていますが、TS040 HYBRIDでは6Mジュールを選択しています。

 モーターのアシストを増やすほど、エンジンとの協調制御が果たす役割はさらに大きくなります。油圧ブレーキとモーターが同時に効くようにすることに加えて、ダウンシフト時のギアチェンジとモーター単体での制動も協調制御しなければなりません。時速300km/からの減速に耐える前後ブレーキバランスの最適化(これが崩れるとドライバーはブレーキを踏めない=限界走行ができません!)も必要です。ギアシフトとモーターを連動させながら、シフトチェンジの時は切断し、加速の時にはつなぐという制御は、「正直言ってめちゃくちゃ難しいです!」(村田氏)。

 書けばもっとキリがありません。モーターのアシストが増えるということは、システム重量が増えるということ。しかし車両重量規定に収まるようにモーターを軽量化しなければいけない、などなど。ああ、もう文字数が全然足りないよう(涙)。

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