HTML5対応とスマートフォン連携に注力、韓国OBIGOが車載情報機器分野で事業拡大:車載ソフトウェア
韓国のソフトウェアベンダーであるOBIGOは、HTML5ベースのアプリケーションフレームワーク「Obigo App Framework(OAF)」や、車載情報機器とスマートフォンアプリの柔軟な連携を可能にする「App Connector」などを投入し、自動車メーカーや車載情報機器メーカーへの浸透を図っている。
韓国のソフトウェアベンダーであるOBIGOが、車載情報機器分野への事業展開を拡大している。NTTドコモの「NOTTV」に採用されたHTML5対応のWebブラウザや、HTML5ベースのアプリケーションフレームワーク「Obigo App Framework(OAF)」、車載情報機器とスマートフォンアプリの柔軟な連携を可能にする「App Connector」などを投入し、自動車メーカーや車載情報機器メーカーへの浸透を図っている。2014年4月に東京都港区に開設したテックセンターに隣接する形で、同年8月にはデバッグや統合テストのサポートを行うQAセンターを併設し、日本市場での展開も強化している。
無線通信技術の普及により、スマートフォンなどのモバイル機器だけでなく、車載情報機器でもインターネットへの常時接続が当たり前のものになりつつある。カーナビゲーションシステム、カーエンターテインメントシステム、デジタルクラスターといった車載情報機器を自動車の特徴として差異化するために、顧客に強く訴えかけられるようなユーザーインタフェース(UI)の開発が重視されつつある。
このUIについて、機能性を確保しながら再利用性を高めるための手段として期待されているのがHTML5だ。車載情報機器のOSとして用いられているLinuxやAndroid、QNXソフトウェアシステムズの「QNX CAR」はHTML5対応をうたっており、車載情報機器へのHTML5採用はほぼ既定路線となっている状況だ。
GENIVIアライアンスでHTML5関連の標準化を担当
OBIGOは、こういった車載情報機器の開発トレンドに対応すべく、自動車業界へのアプローチを強化している。同社代表取締役兼CEOのDavid Hwang(デビット・ハン)氏は、「これまでも。Hyundai Motor(現代自動車)やKia Motors(起亜自動車)、BMWなどの車載情報機器に当社のWebブラウザが採用されてきた。現在は、HTML5対応に向けた需要を取り込むべく、日本の自動車メーカーや車載情報機器メーカーへの提案を強化しているところだ」と語る。
今後の車載情報機器分野の事業展開で主力に据えているのがWebアプリケーションフレームワークのOAFだ。OBIGOは現在、車載情報機器の標準化団体・GENIVIアライアンスにおいて、BMWとともにHTML5関連の標準化を担当している。その活動での知見が反映されているのがOAFなのだ。加えてOAFでは、開発したUIやHTML5ベースのアプリケーションの動作をPC上のエミュレータで確認できる開発環境も提供している。ハン氏は、「車載情報機器の試作機を開発する前に、ほとんどの動作についてこのエミュレータで確認できる。試作機にソフトウェアを実装する前に、バグを早期に発見できるので、開発の手戻りを最小限に抑えられる」と説明する。既に、自動車メーカー2社と、OAFを用いた車載情報機器の開発が進んでいるなど、実績も積み上がりつつある。
他にも、自動車メーカー7社、車載情報機器メーカー6社がOBIGOの顧客となっている。「これらの中に、日本の有力企業も含まれている」(ハン氏)という。
OBIGOの事業展開が成功しつつあるのは、パートナーとの幅広い関係作りによるところが大きい。車載半導体メーカーであれば、Freescale Semiconductor、Texas Instruments、Intel、NVIDIA、富士通セミコンダクター、OSベンダーであればGreen Hills Software、Wind River、Mentor Graphicsなどと提携している。ハン氏は、「車載情報機器向けプロセッサで最大手のルネサス エレクトロニクスとも交渉を進めている」と話す。
車載情報機器とスマートフォンのアプリを連携させる「App Connector」
車載情報機器向けの製品展開は、HTML5対応だけにとどまらない。車載情報機器とスマートフォンのアプリを連携させるための仕組みとなる「App Connector」も提案している。
「App Connector」を用いた車載情報機器とスマートフォンアプリの連携デモ。ナビゲーションアプリ(左側)、POIアプリ(右上)、メディアプレーヤー(右下)を画面分割で同時に利用できる(クリックで拡大)
App Connectorは、車載情報機器とスマートフォンを接続して、スマートフォンのアプリを車載情報機器側で操作できるようにするためのものだ。ただ単に車載情報機器側でアプリを利用するだけでなく、複数のアプリを画面分割して同時に操作できるようにしたり、ナビゲーションアプリとPOI(Point of Interest)アプリのようにアプリ間での連携を行ったりすることができる。
車載情報機器とスマートフォンの連携というと、Appleの「CarPlay」やGoogleの「Android Auto」などが代表例として挙げられる。しかし、CarPlayやAndroid Autoは、あくまで「iPhone」やAndroidスマートフォンのアプリを車両内で安全に使うための独立したシステムであり、基本的に自動車メーカーが車載情報機器を介して提供しようとする各種サービスと連携させるのは難しい。スマートフォン本体と同様に、複数のアプリを同時に操作することもできない。
App Connectorを使えば、CarPlayやAndroid Autoのような制限なしに、自動車メーカーが提供したいと考える、車載情報機器とスマートフォンアプリをシームレスにつないだサービスを容易に実現できる。ハン氏は、「例えば、渋滞予測などに用いられる車両のプローブ情報のような交通ビッグデータについても、自動車メーカー側で管理することも可能だ」と述べている。
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