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これが次世代車載ネットワークの本命!? 「CAN FD」は普及するのか車載半導体/車載ソフトウェア

制御系システムの車載LAN規格として広く利用されているCAN。次世代規格として期待されたFlexRayの採用が広がらない中、CANをベースにより高速のデータ伝送を可能とする車載LAN規格「CAN FD」が登場した。このCAN FDの普及に向けて、対応製品も発表され始めている。

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これが次世代車載ネットワークの本命!? 「CAN FD」は普及するのか

 自動車の走る/曲がる/止まるといった制御系システムでは、車両内に搭載されている各ECU(電子制御ユニット)をつなぐ車載LAN規格として広く用いられているのがCAN(Controller Area Network)である。

 Robert Boschが1983年に策定したCANが、1990年代から量産車に広く採用されるようになって既に20年以上が経過した。その20年の間で、カーエレクトロニクス技術も大幅な進化を遂げたが、制御系システムの車載LAN規格に用いられているのは、最高伝送速度が1MbpsのCANのままだ。2000年に欧州の自動車メーカーを中心に結成されたFlexRayコンソーシアムが、最高伝送速度が10Mbpsの車載LAN規格FlexRayを策定したが、一部の自動車メーカーを除いて採用は進んでいない。これは、FlexRayの関連ICが高価なこととともに、プロトコル方式がイベント駆動型のCANと全く異なるタイムトリガー型であることによるソフトウェア開発のハードルの高さも大きな要因になっている。

 制御系システムの次世代車載LAN規格として期待されたFlexRayを採用しない一方で、ECU間で伝送されるデータ量は増大している。自動車メーカーやティア1サプライヤからすれば、いろんな意味で高くつくFlexRayではない、“速いCAN”のような選択肢があれば選ばれる可能性は高い。

 この需要を満たすべく、Robert Boschが新たに策定したのがCAN FD(CAN with Flexible Data Rate)である。CAN FDは、CANをベースに、1つのデータフレームに載せられるデータ長を従来の8バイトから64バイトに拡張している。これにより、車両内で用いる場合には通信速度が500kbpsに限られていたCANを、1Mbps以上まで高速化できるのだ。

 もちろんCAN FD対応のマイコンやトランシーバ、ソフトウェア開発ツールは必要になる。それでも、プロトコル方式はCANと同じイベント駆動型なので、ECUに実装する車載ソフトウェアへの変更がFlexRayよりも圧倒的に少なくて済むことが大きなメリットになる。

2014年内にCAN FD対応マイコンを投入

 「人とくるまのテクノロジー展2014」(2014年5月21〜23日、パシフィコ横浜)では、このCAN FDに関連する製品が幾つか展示されていた。

 スパンションは、開発中のCAN FD対応マイコンについて紹介した。スパンションのマイコン事業は、CANやLIN、FlexRayなどの車載ネットワーク関連で高い技術を持つ富士通セミコンダクターから買収したものだ(関連記事:富士通がマイコン・アナログ事業をスパンションに売却、GaNデバイスは含まず)。CAN FD対応マイコンの開発は、富士通セミコンダクター時代から続けており、2014年末までにサンプル出荷を始める予定だ。

 同社のCAN FD対応マイコンは最高で5Mbpsの伝送速度を実現できるという。「CAN FD対応マイコンはまだあまり発表されていない。当社が得意とするボディ制御系システム向けでは、他社に先駆けて市場投入できると考えている」(スパンションの説明員)。

スパンションのCAN FD対応マイコンの展示(左)と説明パネル(クリックで拡大)
横河ディジタルコンピュータのCANフラッシュプログラマ&ロガーの新製品「NETIMPRESS air」
横河ディジタルコンピュータのCANフラッシュプログラマ&ロガーの新製品「NETIMPRESS air」。CAN FDに対応する予定(クリックで拡大)

 CAN FDが量産車で活用されるようになるにはまだ時間がかかる。自動車開発のタイムスパンで考えると早くても5年後といったところだ。

 しかし自動車開発の現場ではもっと早い段階から利用される可能性が高い。CANフラッシュプログラマ&ロガーの新製品「NETIMPRESS air」を展示していた横河ディジタルコンピュータによれば、「開発中のECUのプログラム書き換えは、ECUとPCやフラッシュプログラマをCANでつないで行うのが一般的だ。これをCANからCAN FDに置き換えるだけで、ECUのプログラム書き換え作業にかかる時間を大幅に短縮できる」という。

 NETIMPRESS airは2014年秋の発売予定だが、CAN FD対応マイコンが市場投入され次第、CAN FDに対応させる方針だ。

 「CANoe」などの車載ネットワーク設計ツールを展開するベクター・ジャパンも、CAN FDに対応した製品を展示していた。CANoeについては、2013年の「人とくるまのテクノロジー展2013」で対応機能を紹介していたが(関連記事:リアルタイム解析から8倍速CANまで、自動車の最新技術を具現化する開発ツール)、今回は周辺ハードウェアの「VN1630」や「PICOSCOPE5000シリーズ」(Pico Technology製)と連動させてのデモンストレーションを行った。

 VN1630はCANoeなどをインストールしたPCとECUを接続するインタフェース。PICOSCOPE5000シリーズは、CANoeと連携することでオシロスコープとして利用できるハードウェアだ。デモでは、PCのCANoeからCAN FDの信号を送信し、VN1630とPICOSCOPE5000シリーズを介してPCのCANoeで受信するという内容。CAN FDのデータフレームを拡張した部分が、PICOSCOPE5000シリーズによるオシロスコープの画面でしっかり確認できた。

ベクター・ジャパンのCAN FD対応ツールと周辺ハードウェアを用いたデモンストレーション
ベクター・ジャパンのCAN FD対応ツールと周辺ハードウェアを用いたデモンストレーション。「CANoe」が組み込まれたノートPCの右側に、「PICOSCOPE5000シリーズ」が、そのさらに右側に「VN1630」が置かれている。PICOSCOPE5000シリーズを用いたオシロスコープの画面は、ノートPCの後ろの液晶ディスプレイに表示されている(クリックで拡大)

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