クルマを作るって、こんなに多くの力が必要なんだ:モデルベース開発奮戦ちう(2)(2/4 ページ)
燃費世界一を目指すハイブリッド車「バンビーナ」の開発に関わる中で、モデルベース開発を一から勉強している電装部品メーカーの若手女性技術者・小野京子。初めて参加した自動車メーカーの「大部屋会議」に圧倒されつつも、モデルベース開発に“前のめって”いく。
難し過ぎて意味がよく分からない……
鈴木さんとのモデルベース開発に関するミーティングの報告書をまとめたり、豊産スタイルガイドラインを読み込んだり、それをモデルベース開発課で報告したり、いろいろな業務をこなす中で数週間が経過したある日。私はまた、豊産自動車の本社ビルに訪れていた。
それではバンビーナのパワートレイン制御システム大部屋会議を開始します。
1台の自動車を新たに開発するには、自動車メーカー1社の力でどうにかなるものではない。私の所属する三立精機をはじめ、さまざまなサプライヤの協力が必要になる。バンビーナのように、燃費世界一を目指す車両となれば、それを担うパワートレイン制御システムの開発の規模も大きくなる。今回の大部屋会議は、豊産自動車がサプライヤにその開発の方向性を伝えることを目的としており、大会議室は制御システム開発に関連するサプライヤの技術者で満席だった。
三立精機からは、車載電装開発部のトップである大滝部長、モデルベース開発課のメンバーである山田課長やチームリーダーの大島さん、五十嵐さんなどが出席しており、私も末席でかしこまっていた。
また、会議の最前列には、この前JMAABのオープンカンファンレンスで講演されていた、豊産自動車パワートレイン開発部第1課主査の谷田様や、前回の訪問でお世話になった鈴木さんもいた。
クルマを作るって、こんなに多くの力が必要なんだ……。
私はその規模に驚いていた。
会議の冒頭で、バンビーナのパワートレイン制御システムの開発責任者を務める谷田様が、バンビーナのハイブリッドシステムの制御構成について説明を始めた。そういえば、以前参加したJMAABのオープンカンファレンスで講演されていたのが谷田様だった。
バンビーナのハイブリッドシステムは、大きく分けて、エンジン制御、CVT制御、充放電制御、ブレーキ制御、モーター制御という、5つの制御を統合して実現します。より良好な燃費や高い走行性能は、それぞれの制御が連携して、遅滞なく正確に機能要求を満たさない限り実現できません。このため、今回のパワートレイン制御システムの開発は、次に挙げる11の項目に従って進めたいと考えています。
11の項目とは以下のようなものだった(表1)。
項目 | 概要 |
---|---|
① | 車両性能・燃費シミュレーション(=モデル)によって、実現性と必要な作業を明確化する。この時点でシミュレーションによる全体の制御戦略(アルゴリズム)を決める |
② | 求めた制御戦略を機能分割し、各サブシステム(エンジン/駆動/充放電、ブレーキ、モーターなど)に機能の割り当てを行う |
③ | 各サブシステムは、シミュレーションにより詳細な設計諸元を決定する。①の項目で見落とされていた要素がボトムアップ的に加えられることが多いと思われる。例えば、排気ガス規制対応に関するエンジン制御に影響を与える可能性がある。アイドリング/燃料カット/復帰の制御は、CVT制御との調停が必要かもしれない。エアコン制御も変更が必要だろう。 |
④ | 各サブシステム間の調停を行い、最終仕様を決定する。③で言及したボトムアップ的に加えられた項目全体の整合性を取らなければならない。この時点で、全てのサブシステムの制御アルゴリズムが確定するが、アルゴリズムそのものではない |
⑤ | 各サプライヤは仕様に基づきECU(電子制御ユニット)を開発する |
⑥ | 各サプライヤはシミュレーションにより機能検査を行った後で、ECUを納入する |
⑦ | 自動車メーカーにて、各担当部者でECUの検査を行う |
⑧ | 自動車メーカーにて、ECU統合を行い車両全体の評価を行う |
⑨ | 異なる車種や仕向け地に対する展開性や継続的開発に向けての効率化を織り込み、量産仕様を確定する |
⑩ | 量産ECUに組み込むプログラムを開発し、実装、検査を行って自動車メーカーに納入する |
⑪ | 自動車メーカーは実車での最終検査を行い、必要な認証を取得し、量産を行う |
表1 「バンビーナ」のパワートレイン制御システムの開発項目 |
うーん……。難し過ぎて意味がよく分からない……。
会議の雰囲気にのまれて混乱している私に、山田課長が助け船を出してくれた。
私たちが直接担当するのは⑤〜⑩ということをよく覚えていて。でもやっぱり、モデルベース開発によるシミュレーションは必要不可欠なようね。京子ちゃんに調べてもらっていたことが役に立ちそう。
少し落ち着いたので、三立精機が担当することになるCVTの制御を例に考えてみることにした。
今回、谷田様が示した開発の方向性によれば、われわれサプライヤは、モデルベース開発によるシミュレーションを活用して、システムが正しく動くことを保証した上で供給しなければならない。
CVT制御を例にとると、変速比を1にしろと指示されたら、確実に1に制御することを、まずはシミュレーションの検証結果として提示し、製品としても保証しなければならないわけだ。
じゃあ、変速比が1から2に変わるときは、どのような動きをさせればいいんだろう?
変速制御がギクシャクすると、クルマの乗り心地が著しく損なわれることになる。この“ギクシャク”が起こらないように、谷田様が挙げた5つの制御について、トルクという力の配分を指示するとのことだ。この数値を基に、効率が高く乗り心地の良い変速を行えるCVT制御を決め、その特性をシミュレーションで検証できるようにすることになるのだろう。
シミュレーションを使って動きが分かるようにするのか……。
私はなるほどと妙に納得した気分になった。
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