日系企業進出ラッシュに沸くインドネシア、ポイントは「ハラールビジネス」:知っておきたいASEAN事情(19)(2/2 ページ)
日系企業の進出ラッシュに沸くインドネシア。製造業をはじめとする多くの国が新たな拠点設立などを進めているが成功のカギはどこにあるのだろうか。キーワードとして浮上するのが「ハラールビジネス」だ。ASEAN事情に詳しい筆者が解説する。
ハラール認証の高いハードル
以下は、日本ハラール協会のWebサイトより抜粋したハラール認証に関する記述です。
- 企業としてハラール製品を生産する体制が整っていること。ハラールプランを作成すること。製造・生産過程に加工が施されるものには全ての原材料がハラール性が確認できる物のみを使用すること
- ハラールサプライチェーンを順守すること
- 社内にイスラム教徒、もしくは非イスラム教徒でも協会の提供するハラール管理者トレーニングを修得し、ハラール管理者として就労していること。(複数名以上)認証取得から2年間以内にイスラム教徒の雇用をすること
- 荷物昇降、製造ライン、品質管理、倉庫、配送に至る一連をHACCP、GHP、ISO9000、GMPの基準(または同等のもの)に基づきクリアしていること
例えば、豚肉は当然ノンハラールであり、イスラム教徒が口にすることはできないのですが、豚肉以外の鶏肉、牛肉であればOKかといえば、必ずしもそうではありません。鶏肉、牛肉などにしても、イスラム教の作法に基づいて処理されたものしか、ハラール認証を得ることができないのです。
ハラール認証の認定基準は、どの国のハラール協会でも同じなのですが、実際は国によって「信頼度」が異なっています。イスラム教への姿勢、運用の厳格さなどの違いによって、この差異が生じています。こうした現象はある国において国内市場だけを対象にしたハラールビジネスであれば大きな問題となりませんが、複数の国・地域を対象とした輸出ビジネスを行う場合、大きな影響を持ちます。そのため、より多くの国でビジネスを行いたい場合は、より信頼度の高いハラール認証を獲得することが重要になってきます。
大手食品メーカーのネスレ(スイス)、ユニリーバ(オランダ/イギリス)は、多くのハラール製品を製造し、インドネシアをはじめ世界中のイスラム教徒を対象としたビジネスを行っています。一方で日系企業の取り組みはまだまだ限定的です。
日系企業の主なハラールビジネスの例
- 味の素は、1961年にマレーシア、1969年にインドネシアに進出しています。これは日系製造業のASEAN進出の中でもかなり早い方です。主力製品はうまみ調味料「味の素」です。近年は、さまざまな調味料、粉末スープ、甘味料など製品ラインアップを広げています。
- 日清食品ホールディングは、1992年よりインドネシア工場にて即席麺の製造を開始しました。また、カップ麺の代名詞となっているカップヌードルは、多くのイスラム教国で高い市場シェアを獲得しています。
- キユーピーは、2009年よりマレーシアに進出し、マヨネーズをはじめとした調味料の製造を行っています。製造拠点としてマレーシアを選んだ理由は、マレーシア・ハラール協会の信頼度の高さだといわれています。
全世界に存在する16億人のイスラム教徒をターゲットとしているのがハラールビジネスです。インドネシアに限っても、2億人×365日×3食がハラールフードの市場規模となります。国内経済の成長が続き、中間層の可処分所得が増加しているインドネシアはまだまだ成長段階にあり、今後、同国のハラール市場規模が拡大することは明白です。
前述の大手食品会社でも、2000年に味の素インドネシアのハラール違反疑惑、2012年にキユーピーマレーシアのキユーピー人形デザイン変更など、過去に問題が発生したケースがあります。このあたりはイスラム教徒ではない日本人の持つ感覚の限界かもしれません。
しかしながら、イスラム文化圏へのローカライゼーションを進め、日本製品の持つ高い品質、信頼性、食の安全というイメージを活用すれば、ハラールビジネスの後進国である日系企業でも、先行する多国籍企業と対等な競争力を獲得できるのではないでしょうか。少なくとも、新興国企業との競争で劣勢を余儀なくされている家電品や携帯電話端末よりは大きな可能性を秘めているように感じています。
今回のコラムではインドネシアにおけるビジネス展開の1つのポイントとなる「ハラールビジネス」について紹介しました。次回のコラムは、あらためてインドネシアのカントリーリスクについて考察してみたいと思います。
(次回に続く)
海外の現地法人は? アジアの市場の動向は?:「海外生産」コーナー
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