国産・災害対策ロボット、実用レベルに達した「櫻壱號」:再検証「ロボット大国・日本」(15)(2/2 ページ)
千葉工業大学と日南が開発した新型の災害対応ロボット「櫻壱號」が原子力緊急事態支援センターに導入された。櫻壱號は福島第一原子力発電所の事故で国産ロボットとして初めて現場に投入された「Quince」のDNAを継承するロボットである。その実力とは?
現場の要望を反映させた櫻壱號
原発対応版櫻壱號の全長は、53cm(サブクローラ収納時)/107cm(同展開時)。Quinceや櫻弐號よりもひと回り小さく、幅が70cmほどしかないような階段の狭い踊り場でも旋回できるようになっている。周囲を観測するため、高い位置にズーム可能なパンチルトカメラを搭載。その分、重心が高くなったものの傾き40度以上ある階段の走行が可能であるなど、走行性能の高さは維持している。
車体部分の形状やサイズはSakuraによく似ているが、中身は一新。Sakuraの開発後、原子力緊急事態支援センターで試用してもらい、現場から得たさまざまなフィードバックを基に改良を加えたという。
その1つがバッテリーの持続時間だ。オリジナルのSakuraは6時間だったが、サブバッテリーを追加することで8時間に延長した。またSakuraの充電はプラグイン方式だが、原発対応版櫻壱號はバッテリー交換にも対応。ユーザーの利用状況に応じて適した方式を選択できるようにした。
もう1つ大きな改良は、防塵性能と防水性能を持たせたことだ。水深1mで30分間の活動が可能な防水設計になっており、水浸しの環境にも入れるほか、除染の際にも役立つ。また各部の強度を上げることで、メンテナンスの頻度を下げ、運用性も向上させた。
櫻壱號には、線量計や温度計などのさまざまなセンサーが搭載可能となっている。カメラは、メインのパンチルトカメラのほか、前方カメラ、後方カメラ、俯瞰(ふかん)カメラの合計4台を装備しており、周囲の様子を画面で確認しながら遠隔操作が可能だ。なお、原発の建屋のように無線が届きにくい環境では、ケーブル巻き取り装置を搭載して有線通信を行うこともできる。
櫻壱號の販売については、千葉工大からライセンスを受け、日南が生産販売をしていく形だ。日南はこれまで自動車や家電などのプロトタイプ開発を事業の中心としてきたが、今回初めて、自社製品の販売に乗り出す。もともと一品物のような小ロット生産を得意としており、自社の強みを生かせると判断したという。千葉工大との関係は長く、ヒューマノイドロボット「morph」や多脚ロボットカー「Hallucigenia」なども、同社の協力によるものだ。
櫻壱號の販売価格は非公表。買い取りとのことだが、希望によってはリースも可能だという。
今後の販売について日南の堀江勝人代表取締役は、「櫻壱號は災害対策向けロボットとして、消防署などにニーズがある」と見る。新規市場のため、事業の見通しは立てづらいものの、「どれほどの事業規模になるかは分からないが、やらないことには事業は確立しない」(堀江氏)として、まずは始めてみる考えだ。
筆者紹介
大塚 実(おおつか みのる)
PC・ロボット・宇宙開発などを得意分野とするテクニカルライター。電力会社系システムエンジニアの後、編集者を経てフリーに。最近の主な仕事は「日の丸ロケット進化論」(マイナビ)、「3Dプリンタ デスクトップが工房になる」(インプレスジャパン)、「人工衛星の“なぜ”を科学する」(アーク出版)、「小惑星探査機「はやぶさ」の超技術」(講談社ブルーバックス)など。宇宙作家クラブに所属。
Twitterアカウントは@ots_min
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