IEC 61131-3の最新技術動向とJIS B 3503:PLCの国際標準プログラミング入門(6)(2/2 ページ)
「IEC 61131-3」と「PLCopen」について解説する本連載。最終回となる今回は2013年2月に改訂されたPLC用プログラミング言語国際規格「IEC 61131-3 第3版」の内容と、対応するJIS規格である「JIS B 3503」への取り込み状況について解説します。
オブジェクト指向ファンクションブロック
IEC 61131-3 のオブジェクト指向拡張の特徴は、メソッド、インタフェース、実装や継承といった言語拡張が、新たに導入されたPOU種別である“クラス”のみならず、以前からある“ファンクションブロック”に対しても行われている点といえます。すなわち、ファンクションブロックもクラスと同様に複数のメソッドを持ち、インタフェースを実装し、他のクラスやファンクションブロックを継承することができるようになっています。
このような拡張がなされたファンクションブロックを、従来のファンクションブロックと対比して便宜的に「オブジェクト指向ファンクションブロック」と呼ぶことがありますが、これは従来のファンクションブロックとは異なる種類のPOUが追加されたという意味ではありません。あくまで第2版との互換性を保ちつつクラスの特徴も併せ持つように拡張されたものです。宣言キーワードは第2版までと変わらず“FUNCTION_BLOCK”です。参考に、オブジェクト指向拡張されたファンクションブロックの宣言例を図1に示します。
ファンクションブロックのオブジェクト指向拡張の意図は、従来スタイルのIEC 61131-3プログラミングとオブジェクト指向プログラミングを1つのアプリケーション内で共存させられるようにするところにあります。つまり、クラスやメソッドなどのオブジェクト指向拡張を利用して内部ロジックを実装したファンクションブロックであっても、従来通りに入力/出力/入出力変数とボディを持たせておけば、外部からは第2版までと同じ方法で呼び出して利用できるということです。
第3版のオブジェクト指向拡張は、ユーザーやアプリケーションの部分ごとにオプション的に利用できるように考慮されています。裏を返すと、アプリケーション全体を始めからオブジェクト指向で設計するユーザーにとってはファンクションブロックを定義する意味は特になく、代わりにクラスだけを用いても問題ないでしょう。
名前空間
名前空間(NAMESPACE)についてもやはり基本的な考え方はC++やJavaといった汎用プログラミング言語と同様です。データ型やPOU定義など“型”の名前を区切り文字ピリオド“.”を用いて階層的に表現した名前空間ごとに定義できます。名前空間の利点の1つは、名前空間を設定しておくことでライブラリ機能などを用いて外部からデータ型定義やPOU定義をアプリケーションに取り込んだ際に、それらの名称が不用意に衝突することを防ぐことです。
もう1つの利点は、一連の機能を実現するために必要なデータ型とPOU定義を特定の名前空間下に配置し、その機能を外部から利用する上で直接知る必要のない内部実装に対しアクセス限定子“INTERNAL”を付与して名前空間内に隠蔽できることです。これにより、名前空間を“複数のPOUとデータ型定義によって実現される高度な機能を提供するソフトウェアコンポーネント”とできます。このように名前空間はライブラリに格納したソフトウェア部品の構成とメンテナンス性維持のために有効な言語機能といえます。
第3版を取り巻く状況とJIS B 3503への取り組み状況
IEC 61131-3 第3版の新しい言語機能は2014年4月現在、欧州の一部ベンダーでしかサポートされておらずユーザーでの使用実績はまだ非常に限定的な状況です。 国際規格を定めるIECにおいても“IEC 6113-3を用いたアプリケーション/プログラミング言語実装ガイドライン”である IEC 61131-8 の第3版改訂に着手し、IEC 61131-3 の仕様拡張の曖昧な点の確認やあるべき活用方法について議論し始めたばかりという状況です。
国内においては、IEC 61131-3に対応した日本工業規格であるJIS B 3503 への第3版改訂内容の取り込み作業を、PLCopen、NECA、JEMAの合同委員会で2015年中頃の発行を目指して進めています。2015年中頃の発行を目指しています。またPLCopen の技術ワーキンググループにおいても、既存の各種PLCopen標準仕様の第3版への対応と、第3版オブジェクト指向拡張の利用ガイドの作成に向けた研究を進めています。
終わりに
最終回となる今回は、IEC 61131-3の最新技術動向である第3版改訂の内容と、それに対するJIS B 3503改訂や標準化団体における取組状況について、紹介させていただきました。
第3版の特徴であるオブジェクト指向拡張の利点は、従来のPOU活用だけでは困難であった高度なソフトウェアのテンプレート化/部品化とその再利用を実現できるようになった点にあります。ただ、そういったライブラリを適切に設計するにはオブジェクト指向設計に関する高度な知識が必要になります。オブジェクト指向設計は、マシン制御アプリケーションを開発対象とするユーザーの多くにとってはなじみが薄いためその習得は難易度が高く感じられることでしょう。
しかしながら、従来スタイルで記述されたアプリケーションの一部だけに、オブジェクト指向拡張を駆使して設計されたソフトウェア部品ライブラリを利用することも可能であり、それにはさほど高度なオブジェクト指向の知識は要求されません。そういった観点から今後、各PLCベンダーやPLCopenのような標準化団体、また高度な知識を有するユーザーグループなどが、オブジェクト指向拡張を活用したライブラリ群を整備して、利用しやすい形でユーザーに提供していくことが期待されています。
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