タイプラスワン戦略におけるベトナム、職住近接の豊富な労働力はリスクを覆うか:知っておきたいASEAN事情(17)(3/3 ページ)
ASEAN内の製造拠点に「タイプラスワン」の動きが高まる中、9000万人の大規模市場を抱えるベトナムに期待が集まる。しかしベトナムにはまだまだリスク要因が多いという。ASEAN事情に詳しい筆者が解説する。
サムスンの巨大携帯電話端末工場
長い間、ベトナムの輸出統計の第1位品目は縫製品でした。しかし2013年度は携帯電話端末が初めてトップになりました。これは韓国サムスン電子の携帯電話端末製造工場が大きく貢献した結果です。サムスン電子は、チャイナプラスワン戦略というよりも、中国に代わる生産拠点としてベトナムを選択しています。
現在稼働中の第1工場に加え、建設中の第2工場が完成すると、ベトナム生産拠点の生産能力は年間2億4千万台になります。2013年度のサムスン電子の携帯電話端末の販売台数は約4.5億台(推定)なので、第2工場がフル稼働する2015年からは、サムスン電子の携帯電話端末の半分がベトナムで生産されることになります。
ベトナムに限らずアジアへの投資に関しては、日系企業と韓国企業は大きな違いがあるようです。サムスン電子のような思い切った投資戦略というのは、韓国企業の得意とするところです。一方のベトナムとしては、サムスン電子1社、もしくは携帯電話端末1品目に依存するのは本意ではないでしょうが、雇用効果、税収入、外貨獲得など、多大な経済効果を甘受しているのも事実です。
日系企業にとって、9000万人近い人口を持つベトナムが有望な市場であることは間違いありません。しかしながら、製造拠点としてのベトナムとなると、少し様相は異なるように感じます。
2015年のASEAN経済統合を控え、サプライチェーンの整備、適材適所となる生産拠点の整備は、多くの日系製造業にとって急務の課題です。ベトナムが選択肢の1つであることは間違いありませんが、個人的には、ベトナムでなければならない強い理由は見当たらないように感じています。冒頭のアンケートにあるような中期的な事業展開に関しては、もう少し俯瞰(ふかん)的な視野からの思い切った戦略立案が必要になると考えています。
次回のコラムでは、民主化に突き進むミャンマーを取り上げます。以前にも取り上げましたが(関連記事:繊維産業の進出が進む親日国ミャンマー、国内消費の動向は?)、今回はあらためてタイプラスワン戦略の観点から考察していきます。お楽しみに。
海外の現地法人は? アジアの市場の動向は?:「海外生産」コーナー
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