タイプラスワン戦略におけるベトナム、職住近接の豊富な労働力はリスクを覆うか:知っておきたいASEAN事情(17)(2/3 ページ)
ASEAN内の製造拠点に「タイプラスワン」の動きが高まる中、9000万人の大規模市場を抱えるベトナムに期待が集まる。しかしベトナムにはまだまだリスク要因が多いという。ASEAN事情に詳しい筆者が解説する。
ベトナム工業団地は職住近接
2013年に、筆者は4回ほどベトナムを訪問する機会がありました。ホーチミン市郊外のアマタ工業団地でのプロジェクト支援のためです。
今更なのですが、気付いたことがあります。それはベトナムの工業団地では送迎バスがないことです。タイやマレーシアでは、朝夕の出退勤時間には、工業団地周辺が渋滞になるほど、送迎バスで溢れかえります。送迎バスは勤務先から20〜30kmほどの周辺地域を結び、公共交通機関の代替を果たしています。
一方、ベトナムの工業団地で見られる通勤風景は全く異なります。朝夕は、送迎バスの代わりに工業団地内をオートバイが埋め尽くします。
こちらは国号1号線。とにかくオートバイだらけです。
これは、ベトナムでは工業団地から距離的に近い周辺地域から労働力を確保している証拠といえます。もっと言えば、アマタのような大規模な工業団地でも、近距離の地域に十分な労働力があるということでしょうか。地域随一の9000万人近い人口、かつ27歳という平均年齢は、ベトナムの持つ大きな「財産」です。
7月、8月、9月のベトナム出張では、それぞれ1週間ほど、国道1号線を通ってアマタ工業団地に通いました。国道1号線は南北ベトナムを結ぶ全長2300kmとなる主要幹線です。ホーチミンからアマタ工業団地の距離は約30kmで、朝の通勤時間帯で40分ほどで着きます。ところが、帰路の上り車線は、舗装工事のため3車線が1車線に制限されており(実際は狭い2車線ですが、大型トレーラーにとっては1車線状態です)、ホーチミンまで2.5時間かかりました。この舗装工事は、少なくとも7〜9月の期間中ずっと行われていました。
日本であれば、国道の舗装工事は深夜に短い期間で行われ、日中の交通渋滞を起こさない配慮がなされると思うのですが、ベトナムでは、公共サービスという意識が乏しいように感じます。このあたりは社会主義国家である影響が出ているのかもしれません。少なくとも周辺の東南アジア諸国では、ここまでのんびりした工事進捗は見受けられませんでした。
タイプラスワン戦略でのベトナムの役割
さて、ここからはタイプラスワン戦略におけるベトナムのポジションを考察していきましょう。まず、日系製造業のベトナム生産拠点には幾つかの傾向があります。
- 南部のホーチミン周辺には中規模の事業会社が中心であるに対し、北部のハノイ周辺は比較的大手企業の進出が多い
- しかしながら、ベトナム工場の事業規模は小さい
- 地理的な近さから、中国・華南地域、もしくはタイにある主力工場を補完する第2工場という位置付けを取るケースが多い
この3点に日系企業が保有するベトナム生産拠点の性格が良く表れていると思います。
社会主義である点、会社法、会計基準、税制などが未整備である点、言語の問題など、まだまだベトナムはリスク要因の多い国なのでしょう。ベトナム工場を最大の生産拠点としている日系大手企業はありません。この意味では、タイプラスワンというのは、日系企業のベトナムへの認識の面ではちょうどよいポジションなのかもしれません。
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