新市場をつかめ! 勝負を分ける3Dプリンタ特許〔前編〕3Dプリンタの歴史をひもとく:知財コンサルタントが教える業界事情(15)(3/3 ページ)
モノづくりを大きく変革すると期待を集める「3Dプリンタ」。20年以上前から普及している技術だが、現在急に脚光を浴び始めたのには「特許」の存在があった。知財と企業戦略の専門家が知財面から3Dプリンタを読み解く。
2016年には3Dプリンタ市場は3倍に
もともと試作品製造で注目された3Dプリンタですが、製造業のこれまでのビジネスモデルを刷新するだけでなく、医療、軍事、食品の各分野で応用する可能性が見いだされています。
現在では「コンピュータ上で設計されたもの(3次元データ)」であれば、対応フォーマットに変換しさえすれば、あらゆるものが物体化できるまでに進化しています。そのため市場規模も成長しています。2012年の3Dプリンタの市場規模は22億ドルでしたが、2016年には65億ドルにまで急成長すると予測されています(関連記事:3Dプリンタの2013年の出荷数倍増、2017年には薄利多売に!? ――ガートナー)。*)
業務用3Dプリンタに用いられる、プロセスと材料に関する技術の向上に加え、3Dプリンタ本体価格の低下により、既に導入が進んでいる自動車、一般消費財、軍事製品、医薬品だけでなく、幅広い分野での活用が期待できるようになりました。3Dプリンタを利用すれば、企業はカスタマイズされた製品や部品、模型、試作品などの設計に、消費者の関与を求めることもできるようになります。そのため自社ブランドを新たな形でアピールする方法なども生まれています。
3Dプリンタで食事を作る
医療分野における3Dプリンタの応用は、特に注目されています。既に補聴器や人工歯根、人工装具(義肢など)、臓器のレプリカ(手術の準備用)などの医療関連製品の製造に利用されています。さらには、骨や結合臓器などを3Dプリンタで作製する技術の研究も進められています。
米国では、2013年5月にNational Aeronautics and Space Administration (NASA、アメリカ航空宇宙局)が3Dプリンタによる食糧生産研究を行う「Systems and Materials Research」に、12.5万ドルの研究費の提供を決めました。「3Dフードプリンタ」が実現すれば、長期間保存可能な粉末状物(食材・香料)を基に、宇宙飛行士や一般市民に向けて、栄養バランスの優れたさまざまな食品の提供が実現できます。*) 情報通信技術と各種センサー技術を用いて得られた各人の健康情報に基づき、栄養バランスの優れた食事を提供する、というような新たな“料理”の世界が広がるかもしれません。
*) NASAが「3Dフードプリンタ」の開発を支援 参照記事:“NASA to fund world’s first 3D food printer”
(中編に続く)
筆者紹介
菅田正夫(すがた まさお) 知財コンサルタント&アナリスト (元)キヤノン株式会社
sugata.masao[at]tbz.t-com.ne.jp
1949年、神奈川県生まれ。1976年東京工業大学大学院 理工学研究科 化学工学専攻修了(工学修士)。
1976年キヤノン株式会社中央研究所入社。上流系技術開発(a-Si系薄膜、a-Si-TFT-LCD、薄膜材料〔例:インクジェット用〕など)に従事後、技術企画部門(海外の技術開発動向調査など)をへて、知的財産法務本部 特許・技術動向分析室室長(部長職)など、技術開発戦略部門を歴任。技術開発成果については、国際学会/論文/特許出願〔日本、米国、欧州各国〕で公表。企業研究会セミナー、東京工業大学/大学院/社会人教育セミナー、東京理科大学大学院などにて講師を担当。2009年キヤノン株式会社を定年退職。
知的財産権のリサーチ・コンサルティングやセミナー業務に従事する傍ら、「特許情報までも活用した企業活動の調査・分析」に取り組む。
本連載に関連する寄稿:
2005年『BRI会報 正月号 視点』
2010年「企業活動における知財マネージメントの重要性−クローズドとオープンの観点から−」『赤門マネジメント・レビュー』9(6) 405-435
おことわり
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