形を変えても解決しません! ――東芝が語る1DCAEによるモノづくり革新とは:モノづくり最前線レポート(39)
図研が開催したユーザーイベント「Zuken Innovation World 2013」で東芝 研究開発センター 機械・システムラボラトリー 参事の大富浩一氏が登壇し「1DCAE」による上流設計の価値を訴えた。
図研は「Zuken Innovation World 2013」(2013年10月10〜11日、横浜ベイホテル東急)を開催。そのオープニング講演として、東芝 研究開発センター 機械・システムラボラトリー 参事の大富浩一氏が登壇し、「1DCAE」によるモノづくり革新を提案した。
「1DCAE」は、設計・開発において価値や機能を起点とした考え方だ。設計のプロセスにおいて設計情報の次元数が増えていくことから、概念設計を「0D」、機能設計を「1D」、配置設計を「2D」、構造設計を「3D」、製造設計を「4D」とし、この機能設計段階からシミュレーションなどの評価解析を行うべきだとする考え方・手法のことをいう。
上流設計の重要性
CADやCAEは設計の効率化、開発期間の短縮などの効果をもたらしたが、従来の手法ではCADやCAEを活用する段階(3D)では、既に設計の自由度が小さくなっており、抜本的な改善は難しくなっている。これらに対しもっと設計の上流から評価解析を活用し、必要な機能をベースにアプローチ手法やシステム全体を判断できるようにするというものである。
大富氏は「モノづくりの歴史を振り返ると1980年代までは物質的な豊かさが求められた時代だった。しかし1990年代からは物質的な充足により精神的な充足が求められるようになってきた。従来のもの(ハード)、こと(コンテンツ)、メカ(機械)、エレキ(電気)、ソフト(制御、ファーム)などを包括的に捉えたモノづくりが必要になる。その意味で広い設計領域の残っている上流設計の重要性が高まっている」と話す。
1DCAEと3DCAEは車の両輪
大富氏は従来の3DCAEと1DCAEとの関係性を「車の両輪」だと主張する。「従来の3DCAEは形やスペックそのもののこと。1DCAEは機能を考える。どちらかがあればいいわけではない。しかし従来は設計の詳細度が小さい場面で使える仕組みがあまりなかった。上流設計で適用できる設計手法を取り入れることが大事だ」と話す。
例えば、東芝の医療機器でコスト半減が求められた時に、従来の3次元CAD/CAEを基本とした手法で検討した段階では、形状最適化による重量削減はできたものの、コスト削減は10%以下しか達成できなかったことがあるという。その際に1D段階にまで立ち返り、機能ベースからさまざまなアイデアを募集してシミュレーションすることで、最終的に40%のコスト削減を実現できたという。
「構造設計の段階でいろいろと手を加えようとしてもすでに抜本的なコスト削減は難しい状況だった。もっと上流段階まで立ち返って部品点数の少ないメカニズムやモーターの構造変更など、実現可能性のあるアイデアを抽出した。それらを評価検証することで抜本的なコスト削減につなげられた」と大富氏は主張する。
1DCAEのメリット
1DCAEのメリットについて大富氏は「上流設計の実現」「システム全体の可視化」「エンジニアの育成」の3つのポイントを挙げる。
「上流設計を実現することで新たな価値創造や設計の出来を判断できる。またシステムが可視化できることでシステム全体を考えた仕様策定が可能になる。またコミュニケーションの基盤となることで新たなアイデアを実現しやすい環境になる。さらに、設計ツールだけでなく物理現象の理解が必要になるためにエンジニアの育成にもつながる」と大富氏は話している。
ただ一方で「ものを見て現象を理解するという工学の基本が非常に重要な能力となるが、実際には難しく、できる人は少ない。現状のシステムシミュレーションツールではこれを補う意味では不十分。システムシミュレーションが1DCAEのツールとして進化するにはツール自体の高度化と工学基礎教育との連動が必須だ」と大富氏は話していた。
世界同時開発を推進するには?:「グローバル設計・開発コーナー」
世界市場を見据えたモノづくりを推進するには、エンジニアリングチェーン改革が必須。世界同時開発を実現するモノづくり方法論の解説記事を「グローバル設計・開発」コーナーに集約しています。併せてご参照ください。
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