期待の「新・新興国」、ミャンマーとカンボジアの最新クルマ事情:和田憲一郎の電動化新時代!(番外編)(3/3 ページ)
従来、東南アジア諸国連合(ASEAN、アセアン)の10カ国のうち、タイ、ベトナム、インドネシアなどが話題となることが多かったが、最近はミャンマーやカンボジアにも熱い視線が注がれている。「新・新興国」と呼ばれるミャンマーとカンボジアのクルマ事情を、「電動化新時代!」の番外編として和田氏がリポートする。
カンボジア編
カンボジアは、日本で想像している以上に経済発展が著しい国である。
政治面では、過去にクメール・ルージュ政権による大量虐殺というつらい歴史があったものの、現在は首相のフン・セン氏が20年以上に渡って安定した政権を維持している。このためか、賃金上昇や反日運動へのリスクを避けるため、「チャイナプラスワン」としての価値が高まっている。これはタイ、ベトナムにも通じるものがある。南部回廊などの高速道路で連結されようとしている地政学上のメリットもあって、カンボジア工業団地に多くの日本企業が進出し始めている。
<メリット>
- 政治的、社会的な安定性
- 比較的安価な労働力(人口約1500万人、平均賃金75ドル/月でタイの約4分の1)
- 南部経済回廊の中間に位置する地政学上の優位性
- 自由な投資政策と投資優遇策
<リスク>
- 与党(人民党)と野党(救国党)の軋轢(あつれき)。2013年7月に選挙を実施したものの、敗北した救国党が、不正があったとして選挙結果を受け入れていない
- 電力供給設備が脆弱であり、電気料金が高い(他周辺国に比べ約2倍)
- 各種法体系が未整備
クルマに関しては、カンボジアが元フランス領であったことから、左ハンドルを採用している。クルマの種類は米国車や欧州車など多彩であるが、約8割を日本車が占めている。ただし、左ハンドルのため、私の印象では、日本の自動車メーカーが米国仕様として生産したものを逆輸入している例が多いように感じた。高級車では、「レクサス王国」と言われるくらいレクサスブランドのクルマが数多く走っている。なお、右ハンドルのクルマは1997年から輸入禁止となったようだ。
さらに、自動車の環境政策もまだ定まっていない。これは国としての法体系が未整備であることと連動しているのかもしれない。現地の人から聞いたことだが、カンボジア製の電気自動車「アンコールEV2013」が2013年初頭に発表されたが、まだ実際に見掛けたことはないとのこと。
カンボジアで多いのは、バイクタクシーである。道路のあちこちの角に待機していて、夕方ともなると多くの人が後ろに乗って活用している。女性の場合、横向きに乗っていることもあり、交通安全意識の難しさを感じた。
劇的に変化するミャンマーとカンボジア
ここ2〜3年で、ミャンマーとカンボジアの両国は劇的な変化を迎えている。その背景として3つの要因が複合しており、両国のポジションが結果として浮上しているように思える。
- 政治的な民主化、開放政策
- 中国に代表される、賃金の上昇や反日運動へのリスク回避
- アセアン諸国を横断する東西経済回廊、南北回廊、南部経済回廊の建設
自動車の製造および販売の両面で魅力的な地域である。しかし、情報格差や賃金格差は、中国やタイなどと急激に縮まるであろうし、その一方で電力などのインフラについてはすぐには準備できないものも多い。つまり、賃金格差を狙って進出することが、必ずしも得策とはならないのではないか。また、両国を自動車の販売市場と見なすのであれば、他地域からの輸入車だけでなく、地域に密着した市場調査が不可欠だろう。
現地で、「足りないものを挙げたらきりがない」という言葉も数多く聞いた。われわれがどのようなことで貢献し、それによって互いにどのようなパートナーシップを築けるのか。ミャンマーとカンボジアのような「新・新興国」との関係構築に向けて、ざまざまな努力が必要になるだろう。
筆者紹介
和田憲一郎(わだ けんいちろう)
1989年に三菱自動車に入社後、主に内装設計を担当。2005年に新世代電気自動車の開発担当者に任命され「i-MiEV」の開発に着手。2007年の開発プロジェクトの正式発足と同時に、MiEV商品開発プロジェクトのプロジェクトマネージャーに就任し、2009年に開発本部 MiEV技術部 担当部長、2010年にEVビジネス本部 上級エキスパートとなる。その後も三菱自動車のEVビジネスをけん引。電気自動車やプラグインハイブリッド車の普及をさらに進めるべく、2013年3月に同社を退社して、同年4月に車両の電動化に特化したエレクトリフィケーション コンサルティングを設立した。
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