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海外流出は是か非か、進む日本のモノづくり空洞化ものづくり白書を読み解く(前編)(3/3 ページ)

製造業の復活は日本経済の復活に不可欠な要素である。経済成長をもたらしGDPを押し上げる効果が高い他、雇用の増加も期待できるからだ。アベノミクスの勢いに乗り、製造業が真の復活を遂げるには、どのような課題をクリアしていくべきか。「2013年版ものづくり白書」から、日本の製造業が抱える課題を明らかにする。

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海外重視の傾向は顕著だが……

 データから見ると日本企業が国内よりも海外をより強化しようという傾向は明らかだ。グローバル化の流れの中で海外生産比率が増えるのは当然の流れともいえる(関連記事:“世界の工場”中国なんて、ちっとも怖くない?)。

 失敗のリスクが大きい海外展開は、周到な計画や明確な目標が必要だ。

 しかし、ものづくり白書の「海外利益の使途の変化」についてのデータを見ると、計画性があまりないようにも見える。製造業の海外現地法人からの配当金の使途方針に関する調査結果において、今後1〜2年と今後3〜5年のどちらもトップに立った回答が「分からない」であるからだ(図16)。

製造業の海外現地法人からの配当金の使途方針
図16:製造業の海外現地法人からの配当金の使途方針。左が「今後1〜2年」右が「今後3〜5年」(出典:2013年版ものづくり白書)(クリックで拡大)

 例えば「拠点ごとに海外拠点の収益を国内に還流させ、国内での研究開発強化に回す」や「海外に再投資し、新興国市場への拠点整備に使う」など明確な指針があれば、海外展開における経営への貢献度は明確だ。しかし「分からない」というのは、「海外展開におけるビジネスモデルが見えていない」ということにつながりかねない。

 海外で得た収益は、方針や考えなしに保持していても税金や通貨取引などで徐々に損なわれていくものだ。その状況で海外収益に対するビジョンが示せない回答が多いということは“安易な海外展開”の考え方から抜け出せない企業がいまだに数多くいるということではないだろうか。

 図17に示されている通り、海外への生産シフトの要因として最も影響力が高いのは取引先の海外展開によるものだ。取引先の要請をきっかけにして海外展開を始めたという受身の海外展開は、過去から多くあった。実際に部品メーカーの多くは最初の海外進出は「最終製品メーカーが進出するから」という理由だったのではないだろうか。日系企業の最終製品が競争力を持ち、日系部品メーカーとの強固な関係があった時代はそれでも問題はなかった。

国内生産の縮小及び海外への生産シフトの要因
図17:国内生産の縮小及び海外への生産シフトの要因(出典:2013年版ものづくり白書)(クリックで拡大)

 しかし、最終製品のグローバル競争が激化する中では海外展開にも明確な戦略が必要になってくる。日系メーカーは自動車も電機も部品調達の現地化を進めており、日系部品メーカーからの調達比率は下げている。同様に海外に進出した部品メーカーにとっても日系メーカー以外の販売先を確保することが必要になってきている。明確な方針のない“安易な海外展開”がもう通用しない状況になってきているのだ。

“安易な海外展開”はもう通用しない

 日本の製造業にとって海外展開が避けて通れなくなっているのは事実だ。ただ一方で、ものづくり白書を見ると、いまだに戦略なきまま海外展開を推し進め、いたずらに国内の空洞化を招く姿も浮かび上がってくる。“安易な海外展開”で通用する時代は既に終わっている。また米国など先進国への製造業回帰の動きなどから見るに、安い人件費などだけを見て生産拠点を移動させていくビジネスについても、見直す動きが進んでいる。

 海外拠点は自社のビジネスにとってどういう役割を果たすのか、また国内拠点はどういう役割を果たすのか。国内でのモノづくりと海外でのモノづくりの戦略を明確化し、見直すべき時が来ている。

Profile

大澤裕司(おおさわ ゆうじ)

フリーランスライター。1969年生まれ。月刊誌の編集などを経て、2005年に独立してフリーに。工場にまつわること全般、商品開発、技術開発、IT(主に基幹系システム、製造業向けITツール)、中小企業、などをテーマに、雑誌やウェブサイトなどで執筆活動を行っている。著書に『これがドクソー企業だ』(発明推進協会)がある。




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