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中国語の「没問題」は、本当に「問題ない」なのか? 〜オフショア開発とご近所付き合い〜山浦恒央の“くみこみ”な話(57)(1/3 ページ)

オフショア開発は、海外(外国人)に発注するから難しいのではなく、他人に発注するから難しい――。新シリーズでは、「オフショア開発とコミュニケーション問題」を取り上げる。今回は異なる言語間で意思疎通する方法、すなわち「翻訳」について解説する。

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山浦恒央の“くみこみ”な話

 ソフトウェア開発で、最も人件費が高いのは米国と日本です(日本では1人月100万円、米国では1人月1万ドルといわれています)。生産性の改善には限度がある、というより、この40年間で生産性はほとんど上がっていません。ソフトウェア工学による生産性向上策に絶望した企業が、“特効薬”として飛び付くのが、インドや中国をはじめとした海外に発注する「オフショア開発」です(インドや中国であれば、日本の数分の1のコストで、高度な技術を保有するソフトウェア技術者を雇用できます)。

 オフショア開発の成否を分ける最大のポイントは何か。それは、異文化コミュニケーションの問題を解決することにあります。そこで、本シリーズでは「オフショア開発とコミュニケーション問題」を取り上げます。

 オフショア開発を経験した人がまず痛感するのは、“コミュニケーションの難しさ”です。取引先が外国人の場合、なかなか自国(日本)の開発プロセスを理解してもらえません。例えるなら、隣の家の住人や結婚相手の家族との関係みたいなものでしょうか。「同じ人間だし、付き合っていくうちに分かり合えるはず……」と思いながらも、多くの場合「何かが根本的に違う……」と自問する日々を過ごすことになるでしょう。

 シリーズ第4回となる今回は、異なる言語間で意思疎通する方法、すなわち、「翻訳」について解説します。


1.英語の壁

 オフショア開発と聞いて、最初に思い浮かべる問題点は何でしょうか? 大学4年生に質問してみると、真っ先に返ってくる答えが「言語の壁」です。

 その学生らに就職活動の体験談を詳しく聞いてみると、採用面接のFAQ(注1)としてよく質問されるのが、「英語はどの程度できますか?」という外国語に関する内容だそうです。準備万全な学生は、ここですかさず「私のTOEICの得点は780点です。この英語力を生かして、御社の海外進出に貢献したいと思います!」など、資格試験の点数を示し、採用担当者に猛烈アピールします。

 既に企業に属している技術者にとって、TOEICの点数は耳の痛い話でしょう。TOIECのスコアが基準点に達していない場合、昇進できない企業もあります。また、社内公用語を英語にするという思い切った戦略を採用した企業が大きなニュースにもなりました。2020年のオリンピックの開催地が東京に決まったことで、外国語学習熱がさらにヒートアップすると思われます(注2)。

 日本語を外国語に、あるいは外国語を日本語に訳すためには、母国語と同レベルの外国語に対する知識・理解が必要です。翻訳は、TOIECが満点だからといって、必ずしも正確にできるとは限りません。

 以降で、オフショア開発における言語コミュニケーションの問題を紹介します。

注1:「FAQ(Frequently Asked Questions)」という言葉は、米国のコンピュータ系のドキュメントやWebサイトなどでよく見掛けます。「頻繁に聞かれることをまとめた質問集」という意味です。ご存じの通り、英語の略号の読み方は、米国と日本で微妙に異なります。例えば、MIT(マサチューセッツ工科大学)を、日本では「ミット」と1つの英単語のように発音する人がいますが、米国ではそのまま「エム・アイ・ティ」と読みます。MITの場合、トラブルは生じませんが、困るのはFAQ。米国人との打ち合わせで、FAQを「ファ○○」などと1つの単語のように読むと、確実に相手からヘンな顔をされるので注意が必要です。



注2:英会話能力を向上させる安価で効果的な方法が、インターネット上に無尽蔵に掲載されている英語のジョーク文を活用することです。活字になった「話し言葉」を読んで理解できない限り、実際に話し言葉を耳で聞いて理解することは不可能です。最も簡単に「英語耳」を鍛える方法は、4〜5行のジョークをたくさん読むことです。英語のジョークには、1文が非常に短い会話が大量に出てきます。ここで重要なのは、知らない単語が出てきても、無視することです。いちいち辞書で調べるのは面倒ですし、時間がかかります。単語の意味が分からず、そのジョークを理解できなければ、さっさと次のジョークに進むことです。退屈な通勤・通学の時間を利用し、携帯電話やスマートフォンでジョークを大量に読んでいくと、初めは10のうち1つしか理解できなかったのが、1カ月後には3〜4割程度理解できるようになるでしょう。こうなるとリスニング能力も上がり、TOEICの点数アップにつながります。



2.オフショア開発での言語問題

 『IT人材白書(2009) ITで日本を元気にする』(編集:情報処理推進機構 IT人材育成本部著、出版:オーム社[2009年])によると、オフショア開発の課題に「言語問題」を挙げている企業は、平均で70.1%に達しています(表1)。調査数の少ない国もあるので、このデータだけでは一概に評価できませんが、外国語で困っている企業は少なくないようです。中国とのオフショア開発では、日本語でやりとりするケースが多いと聞きますが、インド、米国、ベトナムの場合などは、英語が必須といわれています。

 依頼先の企業が英語圏の場合、英語の要求仕様書を提出しなければなりません。日本語で書いた仕様書を英語に翻訳する必要がありますし、現地の技術者とのコミュニケーション手段である電子メール、電話、インターネット会議は英語が必須です。このように、言語の問題はオフショア開発で避けて通れない重要なテーマなのです。

 「中学生以来、英語は大の苦手。でも、仕事で英語を使わなければならない……」というジレンマで身体が捻じれるような思いをしている技術者も多いのではないでしょうか。

国・地域 調査数 言語が異なりコミュニケーションが難しい(%)
中国 82 59.8
韓国 5 40.0
インド 17 64.7
台湾 1 100.0
ベトナム 16 75.0
フィリピン 6 66.7
マレーシア 1 100.0
米国・カナダ 14 25.0
モンゴル 1 100.0
合計 143
平均 70.1
表1 オフショア開発での言語問題(国別、実施状況別)


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