Intelの車載情報機器に対する深いこだわりから生まれた「Tizen IVI」:Tizen IVI基礎解説(前編)(3/3 ページ)
Linuxベースの車載情報機器向けプラットフォームである「Tizen IVI」。本稿では、車載情報機器に深いこだわりを持ち、IVIという言葉を提言したIntelのみならず、トヨタ自動車をはじめとする自動車メーカーやティア1サプライヤ、半導体メーカー、ソフトウェアベンダーなどが開発に参画しているTizen IVIについて解説する。
「Tizen Mobile」と「Tizen IVI」の関係
Tizenはマルチデバイスをうたっており、スマートフォン、タブレット端末、車載情報機器、スマートテレビ、ノートPCなどへの搭載を目標としている。
Tizenプロジェクトは、Tizenコンプライアンスを定義している。Tizenコンプライアンスでは、図1のような構造を目標としており、デバイスプロフィールの共通コンポーネントを「Tizen common」レイヤーに持って行き、各デバイスプロフィールとは独立して管理する。そしてサードパーティーのコンポーネントをアップストリームで管理する。Tizen commonレイヤーの上位は、各デバイス特有の機能(デバイスプロフィール)を持たせたレイヤーになる。
Tizen commonレイヤーで共通化機能を独立して管理することにより、デバイスプロフィールの依存性を軽減する。結果、デバイスプロフィールごとの独立性が保てるようになり、マルチデバイス対応を実現できるわけだ。
とはいえ、Tizenはモバイル端末向けに開発されたSLPをベースにしているため、それ以外のデバイスへの応用がなかなか難しい状況が続いている。
Tizenがマルチデバイス対応を進める中で、具体的な進展を見せているプラットフォームが、SLPがターゲットとしていたスマートフォンやタブレット端末向けの「Tizen Mobile」と、MoblinのころからIntelがこだわりを持って開発してきた車載情報機器向けのTizen IVIである。
Tizen IVIについては、最新バージョンの2.0の時点でTizen Mobileに強く依存している。内訳は、Tizen Mobileをx86系プロセッサ向けに再ビルドしたものに車載情報機器に必要な一部機能を追加した状態にすぎない。ただし、次期メジャーリリースの3.0では、Tizen IVIとTizen Mobileは互いに独立した関係になっていき、それぞれがターゲットとするデバイスごとに特徴を出しやすくなっていくであろう。
Tizen IVI 3.0では、ディスプレイマネージャーが「Wayland」にリプレースされたり、WebランタイムにTizen IVIの独自拡張APIである「wrt-plugin-ivi」が追加されたりする予定だ。これらの詳細については後編で解説させていただきたい。
Tizenを取り巻く他のプロジェクト
Automotive Grade Linux(AGL)は、The Linux Foundationのワーキンググループの1つで、Tizenプロジェクトとともに、車載情報機器向けのリファレンスディストリビューションであるTizen IVIの開発を主導している。
AGLでは、車載情報機器向けのLinuxカーネルやオープンソースソフトウェアの開発だけでなく、自動車業界とコラボレーションするための環境作りに努めている。最近では車載情報機器向けの次世代UX(User Experience:ユーザー体験)コンテストを開催した。
この他にはGENIVIがある。GENIVIは、非営利団体のGENIVIアライアンスが推進する車載情報機器向けのオープンソースディストリビューションのプロジェクトだ。
GENEVIはThe Linux Foundationの車載情報機器向けプラットフォームとの付き合いが長く、GENIVIの1.0はMoblin for IVIを、1.1と1.2ではMeeGo IVIをリファレンスプラットフォームとして採用していた。
かつてはGENIVIアライアンスの参加メンバーしか、プラットフォームの仕様やソースを閲覧できなかったが、最近では徐々にオープンになってきているようだ。また、オープン化の一環としてGENIVIコンプライアンスプログラムも開始している。同プログラムに適合すれば、GENIVI準拠を宣言できる。
GENIVIアライアンスは、車載情報機器向けオープンソースソフトウェアのプロジェクトも幾つか立ち上げている(http://www.genivi.org/projects)。これらのプロジェクトの開発インフラはThe Linux Foundationが提供している。
協力関係にあるAGL、GENIVI、Tizen
AGLは、GENIVI準拠を目指してTizen IVIを開発している。つまり、AGLとGENIVI、そしてTizenは競合ではなく協業の関係にあるというわけだ。
協業を保てているのはそれぞれのプロジェクトが「アップストリームファースト」ポリシーを採用しているのが大きい。
アップストリームファーストとは、オープンソースプロジェクトの開発ポリシーのことだ。プロジェクトで使用しているオープンソースソフトウェアの修正や改善のパッチをプロジェクト内で管理せずに、まずは対象となるオープンソースプロジェクトへコードをコントリビュートする。その後に必要なコードがマージされた状態のアップストリームコードを使用するという手法である。ソフトウェアが更新されるたびに変更点をメンテナンスするコストが軽減され、多くのプロジェクトが恩恵を受ける。
AGLとGENIVIのTizenに対するコントリビュートは、Tizen IVIや、Tizen IVIが採用しているオープンソースプロジェクトまで反映される。反映の結果、AGLとGENIVIは互いに改善されたTizen IVIを使用できるようになる。
他にも、AGLが下位レイヤー、GENIVIがアプリケーション層と関わる上位レイヤーに開発をフォーカスしているのでオーバーラップが発生しないというメリットもある。
前編では、Moblin for IVIからTizen IVIに至るまでの車載情報機器向けプラットフォーム開発の歴史と、Tizen IVIの開発に関わるさまざまな組織について解説させていただいた。
次回の後編では、Tizen IVIの特徴を詳しく紹介しよう。
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