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Linuxとイーサネットが鍵を握る車載情報機器の進化Automotive Linux Summit Spring 2013リポート(1/2 ページ)

2013年5月28〜29日に東京都内で開催された、「Automotive Linux Summit Spring 2013」(主催:The Linux Foundation)。同イベントでは、車載情報機器への採用が広がりつつあるLinuxや、それと関連する開発プロジェクトの最新情報が紹介された。本稿では、ジャガーランドローバーとルネサス エレクトロニクスによる2日目の基調講演をリポートしよう。

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ジャガーランドローバーのMatt Jones氏

 2013年5月28〜29日に東京都内で開催された、「Automotive Linux Summit Spring 2013」(主催:The Linux Foundation)。2日目の基調講演は、英国の高級自動車メーカーであるJaguar Land Rover(ジャガーランドローバー)のMatt Jones氏による「Automotive Crowdsourcing - Enabling Collaboration beyond Customer Surveys, Focus Groups and Industry Consortia」からスタート。高級車メーカーがなぜ車載情報機器の開発に注力するのかという観点で講演が行われた。

最高のユーザー体験でブランド力を維持

ジャガーランドローバーのMatt Jones氏
ジャガーランドローバーのMatt Jones氏

 ユーザーはなぜ高級車を買うのか。これは「ユーザー体験」を求めるからだ。Jones氏は、「ジャガーランドローバーが世界最高のブランドに足る、ベストなユーザー体験を提供することが大事だ」と語る。ドライバーだけでなく、後部座席の乗員(運転手がいるエグゼクティブなど)にも特別な体験を提供するためのサウンド、インテリアの香り、ナビゲーションをコントロールするミドルウェアやユーザーインタフェース(UI)がブランドを連想させるのだ。

 よいユーザー体験とは一体何だろうか。ジャガーランドローバーは2011年に、同社のユーザーに対して、「今から3年後の2014年には、ジャガーランドローバーの車両にどのようなものが欲しいか」というアンケートをとったことがあるという。その結果、帰ってきた回答は「分からない」がほとんどだった。Jones氏は、設問自体がよくなかったと認識しつつも、「将来、何が欲しいかは分からない。しかし、スマートフォンやタブレット端末と同じようなユーザー体験を自動車の中でも実現してほしい」という意味だと捉えた。

 そこで、車載情報機器について、音声認識システムやBluetoothによる接続機能を搭載し、オープンソースを採用するなどしてプラットフォーム側に柔軟性を持たせ、開発しやすく進化できるものにする方針を決めた。これにより、将来のユーザー体験が豊かなものになると考えたのだ。これが、ジャガーランドローバーが開発に注力している「IVI(In-Vehicle Infotainment)システム」である。

 Jones氏は、ジャガーランドローバーの考えるIVIシステムの開発について、会場で聴講する参加者に「素晴らしいブレーンがここにいる。私たちがどこに向かうべきか、そのことを話したい」と語りかけ、1枚の絵を提示した。そして、「IVIシステムの“頂点”を目指すことはエベレストに登るようなものだ」と続け、達成に向けた3つのレベルをそれぞれ解説した。


ジャガーランドローバーの考えるIVIシステム、その頂点までの道のり

レベル1:The Linux Foundation

 Jones氏は、「IVIシステムのベースキャンプになるのがThe Linux Foundationであり、ベースOSはLinuxになると信じている」と強調した。4年前、オープンなIVIプラットフォームを目指し、GENIVIアライアンスが開発した「GENIVIプラットフォーム」が登場した。この中からは、IVIシステム向けのミドルウェアやオリジナルのプロジェクトが動いており、業界全体での品質向上や標準化が進められている。


GENIVIアライアンスの概要

 同氏は、日本国内の車載ソフトウェア標準化団体である「JasPar(Japan Automotive Software Platform and Architecture)」の動きにも注目している。GENIVIとJasParが共同作業で、車載イーサネットやBluetooth関連の標準化を行っていることを挙げ、「本当に素晴らしい働きだ」と述べた。

レベル2:Tizen IVI

 ベースキャンプの次、レベル2に相当する部分は「UI」だ。ユーザーが直接見て触れるUIは、最高のユーザー体験を実現するための要となる部分だ。そこで重要な役割を果たすのが、IVIプラットフォームである「Tizen IVI」だ。Tizen IVIは、HTML5の技術を車載情報機器で広く利用できるように、SDKやIDEの共有を目的としている。

 Jones氏は、自動車関連システムの構築を目的としたLinuxのワーキンググループ「Automotive Grade Linux(AGL)」の設立について触れ、「AGLによってリファレンスソフトウェア/ハードウェアが作られたことが大きな進歩を促すであろう」とコメントした。リファレンスを使うことで開発者向けの仮想イメージを提供できるようになったので、参入障壁はかなり低くなった。しかも、AGLのミッションとして、これらのリファレンスソフトウェアは全て無料で提供される。


AGLで行われたコンテストの受賞作品。車載ソフトウェアベンダーのTata Elexiはこれを3週間で開発したという。

レベル3:アライアンス

 Jones氏は個人的な意見としながら、最後の挑戦として「多くの業界とのアライアンスが重要だ」とした。IVIシステムをさらにオープン化したいならば、W3CやBluetooth SIG、dlnaなどの業界団体ももっとオープンになり、車載システムとの融合を目指すべきだという。


Jones氏が協調すべきとした業界団体のロゴ

 最後に同氏は「未来」と題するスライドを提示した。Linuxカーネルの生みの親、リーナス・トーバルズ氏が「If it's not fun, Why do it?」と書かれた紙を持っているものだ(これはアイスクリームのBen&Jerry'sを創業したジェリー・グリーンフィールド氏の言葉)。「私たちは自動車が好きだからこの業界にいる。大事なのは、取り組みを楽しいものにしていくこと。皆さんと一緒なら、成功するはずだ」(Jones氏)と述べ、講演を締めくくった。


「楽しくなければやる意味はない」

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