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クアルコムとIHIが見据えるEV向けワイヤレス充電の未来和田憲一郎の電動化新時代!(3)(3/3 ページ)

第1回のWiTricityに引き続き、電気自動車(EV)向けワイヤレス充電の有力企業であるクアルコム、IHIに取材を行った。果たして彼らはライバルなのか、協業できる関係なのか。次に打つ手は何なのか。その核心に迫った。

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ケース3:経済産業省はどう考える

 最後に、EV向けワイヤレス充電について政府関係者はどのように考えているのか、経済産業省の自動車課で電池・次世代技術室長を務める井上悟志氏にお話をうかがった。

・EV向けワイヤレス充電には幾つかの方式が存在する。経産省としては特定の方式を推進するなどの考えはあるのか

 今や標準化は企業戦略の中に深く組み込まれている。現時点で経産省はあくまでニュートラルポジションであり、どの方式がよいとは言わない。ただし、グローバルでコンパチビリティー(互換性)を有する方式が望ましい。

・EV向けワイヤレス充電について、補助金など政府支援の予定はあるのか

 まだ定まったものはない。EV向けワイヤレス充電については、大義を明確にすることが必要であろう。これを採用することで利便性が高まることは理解できる。しかし、それでEVの普及が著しく進むのか、もしくは単なる機能追加であって自動車メーカー各社が付加価値として提案するものなのか。こういったところを明らかにしていく必要がある。

・市場投入に至るまでに、電波法の法的緩和や特区認定などが必要だという意見があるが

 全く新しい技術であり、実証試験が必要なことは理解する。ただし、個別企業の担当レベルではそのような要望があるのかもしれないが、現在のところ業界としての要請は上がってきていない。まずは使用周波数、型式制度、試験デバイスなど技術要件に注力しているようだ。業界として、または企業としてでも、規制緩和などの要望がまとまるのであれば、いつでもお話をおうかがいしたい。

・普及推進協議会が必要ではとの声もあるが、どうか。

 やはりEV向けワイヤレス充電をビジネス化したい方々自身で設立すべきである。こういったことは、行政が無理やり押し付けてもうまくいかない。ただし、行政は足りないものをサポートすることは可能である。

今後望まれること

 EV向けワイヤレス充電のキープレーヤーにお話を伺ったが、全体を通して言えるのは現時点でかなりの温度差があることだ。そこで、筆者は次の3つを提案したい。

(1)ビジネス面の検討

 技術面は、ブロードバンドワイヤレスフォーラム(BWF)を中心にかなり進んでいる。しかし、グラウンド側装置の設置に関するガイドラインなど、ビジネス展開を想定した動きが鈍い。ワイヤレス充電では、車両側以上にグラウンド側の装置が大きな役割を果たすだろう。グラウンド側と連動する、充電インフラ、セキュリティ、課金システムなど多彩なビジネス面の検討が必要となる。そのためにも、協議会もしくは準備会などを結成することが喫緊の課題であろう。

(2)特区などを活用した実証試験

 車両や機器を実際に動かしてみることで、従来見えなかったものが見えてくる場合がある。ワイヤレスの見える化である。各企業が車両/機器を持ち寄り、特区での実証試験を集中して行うことで、国際規格では決まらない強度や耐久要件などの方向性が定まってくるのではないだろうか。クアルコムには、ぜひロンドン市の実証試験などのノウハウを持ち込んでいただきたい。

(3)認証制度確立への準備

EV向けワイヤレス充電システムに対応する車両や機器の開発がある程度進んだ段階で、一番問題になるのがInteroperability(相互互換性)である。これは民間だけでなく、電気事業法などの安全性も含めた官民合同の協議が必要になるのではないか。現在は認証のための要件や体制が固まっていないため、実現までには2年くらい要するだろう。(1)と併せて喫緊の課題となろう。



 EV向けワイヤレス充電は、革新的技術として、日本のみならず欧米でも開発が進んでいる。日本は、EV/PHEV、電子機器、通信機器など数多くの技術で強みを持っており、これらの技術をうまく結合できれば、世界に先駆けて小型・高品質・リーズナブルな価格の製品を開発できるはずだ。

 しかし、現在の日本国内の状況は、国際規格の標準化が定まらないことを理由に様子見し、決まってから動きだそうと待ちの姿勢になっているようにも見受けられる。EV向けワイヤレス充電のような革新的商品では、流れの先頭に立たない限りリードすることは難しい。

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筆者紹介

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和田憲一郎(わだ けんいちろう)

1989年に三菱自動車に入社後、主に内装設計を担当。2005年に新世代電気自動車の開発担当者に任命され「i-MiEV」の開発に着手。2007年の開発プロジェクトの正式発足と同時に、MiEV商品開発プロジェクトのプロジェクトマネージャーに就任し、2009年に開発本部 MiEV技術部 担当部長、2010年にEVビジネス本部 上級エキスパートとなる。その後も三菱自動車のEVビジネスをけん引。電気自動車やプラグインハイブリッド車の普及をさらに進めるべく、2013年3月に同社を退社して、同年4月に車両の電動化に特化したエレクトリフィケーション コンサルティングを設立した。



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