シミュレーションの今昔、未来を変えるスパコン「京」:CAEベンダー MSCが50周年(2/2 ページ)
「京を使って、風洞実験の代わり」ではなく、「風洞では不可能な検証」すなわち「風洞では到底再現できない、リアルな実機走行に極めて近いシミュレーションを実現する。2013年5月30日開催「MSC Software 2013 Users Conference」講演より。
50年の歩みと新しい取り組み
エムエスシーソフトウェア 代表取締役社長 加藤毅彦氏は同社50年の歴史をたどりながら、これからのシミュレーション(CAE)がどうあるべきか語った。「私自身は、約40年前に有限要素法の勉強を始め、約30年前には『Nastran V61』を使ってスパコンのベンチマークをしていました」(加藤氏)。
1963年のMSC設立当時に、CADの先駆けであるプログラム「Sketchpad」が誕生。以来、1980年に「Patran」を同社が買収する頃まで、シミュレーションの用途は、製品出荷後に出たトラブルの原因を解明する「トラブルシューティング」だった。1980年頃にスパコンが登場。以後、1990年代後半にかけて、シミュレーションは設計検証やバーチャル試作に活用されるようになり、民間企業にも普及していった。2000年代になると、これまでの流れに加え、パラメータスタディを活用した最適化手法を使った設計が登場。
新しい手法は登場してきているものの、現在は「設計(形状決定)後の解析」という流れがまだ主流だ。しかし、これからはライフサイクルコストの7割以上を決めてしまう設計初期(概念設計)の段階からシミュレーションを活用することがイノベーションにつながると加藤氏は述べた。ただし、これまではそのような解析を実行するためのコンピュータリソースの確保が課題となった。現在はHPCやGPUのハードルが以前より下がってきており、PFLOPS(ペタフロップス)単位の計算環境が夢の世界ではなくなった。また、クラウドコンピューティングも登場し、コンピュータリソースに割くコストや手間が軽減しやすくなる。現在、概念設計からのシミュレーションが実現可能な環境が整ってきている。同社ツールもそのような環境に対応させる。
同社が2012年10月に買収したe-Xstream engineeringの「Digimat」の技術で実現する材料構造シミュレーションもそのビジョンの1つ。Digimatはもともと航空機開発における規格順守や、開発コストの中で大きな比率を占めていた複合材開発の効率化をかなえるツールとして活用されてきた。従来は、決められた材料特性で設計を進めるしかなかったが、MSCではDigimatを活用して材料特性も変数にして設計する環境を実現していくという。
講演イベント中に紹介された、開発中の製品「MaterialCenter」は、樹脂材料データを蓄積するDigimatと密に連携するデータ管理センター。Digimatやサードパーティーが提供するさまざまな材料データベースや、実験データ、材料開発過程の承認プロセスなど、センターで統合管理する。さらにCADやCAE、PLMなど設計プロセスもそこにつなぎ、設計や解析の変数として利用したり、レポート作成などが行えるようにするという。
MSCの創設者
米MSC CEOのドミニク・ガレロ氏は、約30分ほどのスピーチを日本語で実施。創設者に関する話題や、50周年を祝う顧客たちのメッセージ、事例を簡単に紹介した。「(創設者たちは)スマートで知識欲が旺盛。未来へのチャレンジスピリットや成功への思いも強いです」とガレロ氏。
1963年2月、MSC創業時の社名は、「The MacNeal-Schwendler Corporation」だった。同社創業者のリチャード・マクニール氏とロバート・シュヴェンドラー氏は、アーチ式ダムを開発するための有限要素法解析プログラム「SADSAM」(Structural Analysis by Digital Simulation of Analog Methods)を開発。後に、NASAの機体強度解析プログラム作成プロジェクトに参画し、SADSAMは「NASTRAN」(NASA Structural Analysis Program)と名を変えた。社名も、マクニール氏とシュヴェンドラー氏のスペルの頭文字が縮めらて、MSCとなった。
マクニール氏は既に90歳を超えているが、「今も元気です」とガレロ氏は話した。ガレロ氏はMSCの企画でマクニール氏を訪問した様子を紹介した。
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