最終製品・部品メーカーも新材料開発に協力できるツールを:MSCの解析ソフトウェア新製品内容の一部が明らかに
MSCは、買収して子会社化したe-Xstream engineering社の材料構造解析システム「Digimat」を次期バージョン以降の「MSC Nastran」に組み込み、材料特性を設計変数として利用可能にするという。最終製品・部品メーカー側が新材料開発に協力する協業モデルも実現可能だ。
エムエスシーソフトウェア(以下、MSC)は、同社のユーザーイベント「MSC Nastran Users Meeting 2012」を2012年10月30日〜11月2日、大坂、名古屋、東京で開催した。その会場で、同社の汎用構造解析システム新製品「MSC Nastran 2013」「MSC Nastran 2013.1」の内容の一部について明らかにした。2013は2013年4月、2013.1は同年秋に販売開始予定だ。
MSC Nastran 2013は、主に以下の機能追加や改善を図った。
- HPCとGPUによる計算性能向上
- 多孔体弾性材料の解析に対応
- 疲労解析の組み込み、最適化(Nastranで疲労解析と直接連携し、疲労解析結果を最適化)
MSC Nastran 2013.1の主な機能追加・改善は以下の通りだ。
- 疲労解析の組み込み:進展型の破壊解析など
- 非線形における接触の改善
- Nastranの非線形解析結果を機構解析ソフトウェア「Adams」側に出力し利用できる
上記の新製品では、「(詳しくは明かせないが)解析モデル用の3次元モデリングの操作が非常に直感的で簡易になる」と米MSC Software 製品開発担当副社長 ダグ・ニール(Douglas J Neill)氏は話した。この機能によって、3次元CADの操作に慣れない解析専任者側からの形状提案をよりしやすくできると同社は考える。
2012年10月1日にMSCはe-Xstream engineering(以下、e-Xstream)を買収し子会社化すると発表している。e-Xstreamの材料構造解析システム「Digimat」は、一般的なプラスチックやゴムの他、短繊維強化プラスチック、連続繊維複合材料などを解析できるツール。次期バージョン以降のMSC Nastranから、Digimatの機能や材料データベースを組み込み、材料特性を設計変数として利用可能となるという。この機能で、部品メーカーや最終製品メーカーが、解析ソフトウェアを共通言語として、材料メーカーの材料開発に協力するといった協業体制も可能だとMSC日本法人の代表取締役社長 加藤毅彦氏は説明した。
複合材は、自動車の軽量化や衝突特性を高めるために使用されてきた。複合材の採用は、自動車の振動や音響に影響を及ぼすこともある。MSC NastranとDigimat、音響解析ソフトウェア「Actran」と連携させるニーズが想定できる。
「日本はトップレベルの材料開発技術を持つ。しかし、日本で開発された新材料は大抵、海外メーカーがいち早く採用する傾向にある。これは非常にもったいないことだと思う。Digimatで企業の競争力を高め、日本のメーカーが日本の新材料を一番に採用できるようになってほしい」(加藤氏)。
同社の解析ソルバはかつて、MD(複合領域)解析が可能な「MD Nastran」と「MSC Nastran」(MD非対応)の2種類が存在していた。
用語
MD:マルチディシプリン(Multidiscipline:複合領域)の略。従来のマルチフィジックスによる連成解析は、さまざまな物理現象を表す数式を複数管理することで解析する。また、この場合は1つのソルバで、複数の式を解かせる。この方式では、精度の高い解が必ず出るとは限らない。それに対し、実績のある複数の技術(複数の領域:Adams、Nastranなど)をつなぎ合わせて解くのがMD。連成解析には似ているが、強いていうなら疎(そ)結合の連成である。
開発現場やユーザーの間で、少々の混乱や、作業の非効率があったことから、バージョン2012より2種のソフトウェアを統合し「MSC Nastran 2012」とした。「MD」と「MSC」、どちらに統一すべきか、MSC社内でも意見が分かれたという。議論の末、歴史があり知名度の高い「MSC」を採用することにしたとのことだ。
「Nastranユーザーの間でのMDの認知度アップが課題。MD対応のNastranを使用していても、従来のように解析分野ごとにモデルを作成し連携解析するユーザーがまだ結構いる。MDは、1つのモデルで連携解析できることで、作業工数・コスト削減につながる可能性があるので、ぜひ活用してもらいたい」(加藤氏)。
MSCは設立50周年を記念して、2013年5月30日にユーザー向けイベントを開催するとのこと。そこで、現在開発中の「新たなCAEプラットフォームとなるシステム」を発表するという。
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