ワイヤレス充電で世界最先端を走るWiTricity、その実像に迫る:和田憲一郎の電動化新時代!(1)(3/3 ページ)
三菱自動車の電気自動車「i-MiEV」の開発プロジェクト責任者を務めた和田憲一郎氏が、自動車の電動化について語る新連載。第1回は、電気自動車の普及の鍵を握るワイヤレス充電技術で世界最先端を走るWiTricityの実像に迫る。
EV搭載時の課題
EVへのワイヤレス充電技術の搭載については、いろいろな自動車メーカーとの協業により、現在かなり検討が進んでいる。守秘義務の関係で詳細は説明できないが、WiTricityによれば、「異物検知(FOD:Foreign Object Debris)」が課題になるという。
異物検知とは、上下のレゾネータ間に金属異物が挿入された場合、センサーが検知し通電を停止する技術である。かなり微細なものまで検知可能となっており、その閾(しきい)値は変更可能である。いったん通電が停止すると、たとえ異物が取り除かれていても実際に確認する必要があるため、自動復帰ではなく再びユーザーがスイッチを入れなければならない。
WiTricityは、ワイヤレス充電の原理と基本構造といった技術を開発している企業であり、EVのワイヤレス充電に必要なレゾネータやその他周辺機器の製造は事業分野に入っていない。このため、車両側の受電装置や地上側の送電装置の量産開発も他の企業に委ねることとなる。Schatz氏らと意見交換したところ、以下の3つ項目が普及に向けたハードルになっているようだ。
(1)システム供給企業
複数の自動車メーカーや他企業がWiTricity社と提携しているが、自動車という市場規模を考えると、より大きな枠組みが必要になるであろう。
(2)EV/PHEVの普及スピードがスロー
EVは車両価格(つまりバッテリー価格)の低下が予想以上に緩やかであり、走行距離の懸念と相まって、その普及スピードはスローである。それに伴い、自動車メーカーや充電インフラ企業が、思い切ってワイヤレス充電の技術開発にリソースを投入しにくい状況にある。
(3)車両と充電インフラ側の開発タイミングの合わせ込み
車両開発のスケジュールは数年先まで決まっており、これと充電インフラのワイヤレス化をどのタイミングで合わせるかが課題になる。車両とワイヤレス充電に用いるインフラ機器の安全性や、機器互換性を保証する認証制度の確立時期も課題となろう。
技術を使いこなす企業の必要性
今回、WiTricityを訪問して感じたことは、同社の素晴らしい技術を使いこなす企業の必要性である。例えて言えば、トランジスタを使ってトランジスタラジオを開発したソニーのような存在である。現在、WiTricityは、EV関連では複数社と連携している。これらの中から“技術を使いこなす企業”が登場することを期待しながら、今後の展開に注目したい。
日本国内の企業も、WiTricityと連携してEV向けのワイヤレス充電技術を開発している。日本において、現在電波法で規制されているワイヤレス充電の実証試験場所について、規制緩和や特区指定などによって緩和するとともに、急速充電器の普及に貢献したCHAdeMO(チャデモ)協議会のような団体ができれば、EV向けワイヤレス充電の実用化が一段と早まるのではないか。これらの取り組みが早期に実現されることを望みたい。
筆者紹介
和田憲一郎(わだ けんいちろう)
1989年に三菱自動車に入社後、主に内装設計を担当。2005年に新世代電気自動車の開発担当者に任命され「i-MiEV」の開発に着手。2007年の開発プロジェクトの正式発足と同時に、MiEV商品開発プロジェクトのプロジェクトマネージャーに就任し、2009年に開発本部 MiEV技術部 担当部長、2010年にEVビジネス本部 上級エキスパートとなる。その後も三菱自動車のEVビジネスをけん引。電気自動車やプラグインハイブリッド車の普及をさらに進めるべく、2013年3月に同社を退社して、同年4月に車両の電動化に特化したエレクトリフィケーション コンサルティングを設立した。
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