“学ぶ姿勢”ではいけない。インスピレーションでドライブする構造に――JAXAシニアフェロー 川口淳一郎教授:著名人キャリアインタビュー(2/3 ページ)
2010年、科学技術分野の国家予算にも容赦なく事業仕分けのメスが入る中、小惑星探査機「はやぶさ」が苦難の末に地球へ戻ってきたという知らせに、胸を躍らせた人も多いことだろう。そのはやぶさのプロジェクトマネージャとして脚光を浴びたのが川口淳一郎教授。多くの理系人が一度は夢見たであろう宇宙開発という仕事で成功を収めた川口教授は、どのようなキャリアを歩んできたのだろうか。川口教授が宇宙開発を選ぶまでの経緯、そしてこれから自身のキャリアを決めていくことになる理系学生に向けてのメッセージを聞いた。
はやぶさはうまくいったまれな例。ハイリスクでも先行投資は持続すべき
宇宙開発を仕事にすることを選んだ川口教授は、大学院修了後、宇宙科学研究所(現・JAXA)に進む。宇宙科学研究所では、はやぶさ以前にも「さきがけ」「すいせい」「のぞみ」などの探査機開発に関わってきた。
はやぶさの帰還で一躍、時の人となった川口教授だが「宇宙開発は難しいんですよ。はやぶさのようにうまく行く方がまれ」と釘を刺す。
「宇宙開発は試作機を1つしか作りません。普通の産業なら、試作機を作ってから製品化を考えるわけですが、そのプロセスが無いのが宇宙開発なのです。
対して、企業の経営というのはローリスク・ローリターンでも確実に利益を得ていきます。利益率は低くても、ちゃんとした利益は上がるわけですよね。
でも長期的に考えると、ローリスク・ローリターンでは産業自体がどんどん縮んでいってしまいます。それを避けるためには、どこかでハイリスクで先行投資が必要なパイロット的な事業をやっていかなくてはいけません。
かといって先行投資に膨大な予算を掛けては母体となる国や企業が危うくなりかねません。ですから、少額であっても先行投資を持続的にやっていくのは、国や企業にとって非常に重要なことなのではないでしょうか」
日本の閉塞感を招いたのは“学ぶ姿勢”
そういった大学、大学院、宇宙科学研究所での経験を経て、川口教授が感じるようになったのは“学ぶ姿勢ではいけない”ということ。逆説的に聞こえるかもしれないが、「学ぶ」ということは誰かから教えを請うこと。何かの本を読んでから、誰かに教えられてから行動に移すのではなく、主体的に動けるようになることが大切なのだと考えるようになった。
「研究というのは誰もやっていないからやるのであって、『誰かに教えてもらえないと研究できない』というのは矛盾した考えです。会社に行ったとしても同じですよね。“指示待ち族”ではいけないのです」
今の日本に対して感じられている閉塞感。その原因も、“学ぶ姿勢でいる”人が多いところにあるというのが川口教授の考えだ。
「『新たな物を作る』というときには『何かを見てから。何かを読んでから』ではないんですよね。イノベーションを生む源は、インスピレーションなんです。
日本に閉塞感があるのは当たり前の話。“指示待ち族”が多いと統率がとれて物を生産するのにいいのかもしれませんが、今の日本はマンパワーも足りないし、人件費も高い。アジアの中で見ると日本の教育レベルは高いですが、いずれはアジアに抜かれていくかもしれません。製造プロセスや品質で勝負していても、いつかはアジアに勝てなくなります。
そう考えていくと、大切なのは次を拓くための創造力。インスピレーションでドライブするような構造に変えていくことでしょうね。
これは宇宙開発に限った話ではありません。科学技術だけの話でもなく、人文科学系の分野でもいえることではないでしょうか」
その意味で、川口教授が理系学生に勧めるのは「学部を超えて、いろんな人と付き合うこと」。自身の学生時代の経験を踏まえ、少しでも考え方の転換が生まれる機会に身を置くよう助言している。
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