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ミリ波レーダーの設計が容易に、「MATLAB/Simulink」の新バージョン「R2013a」モデルベース開発

モデルベース開発環境「MATLAB/Simulink」の最新バージョン「R2013a」は、車載ミリ波レーダーの設計を容易にする2つの機能が追加された。「Raspberry Pi」や「Kinect for Windows」など組み込み機器の開発で注目さている製品との連携も可能になっている。

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フェーズドアレイシステムを使用する車載ミリ波レーダー

 The MathWorks(以下、マスワークス)の日本法人・MathWorks Japanは2013年4月11日、東京都内で会見を開き、モデルベース開発環境「MATLAB/Simulink」の最新バージョン「リリース2013a(R2013a)」で追加された新機能について説明した。

 マスワークスは、MATLAB/Simulinkの定期的なバージョンアップを年間2回行っている。春にリリースされるバージョンはその西暦年と末尾に「a」が付き、秋にリリースされるバージョンは末尾に「b」が付く。R2013aは、2013年3月9日に発表されている。

フェーズドアレイシステムの設計/解析を支援

 会見では、R2013aで追加された、自動車の安全システムのセンサーデバイスとして利用されている車載ミリ波レーダーの設計を容易にする2つの機能が紹介された。

 1つは、車載ミリ波レーダーや航空/宇宙/軍事用途のレーダーに用いられているフェーズドアレイシステムの設計と解析を支援する、MATLAB向けのツール「Phased Array System Toolbox」である。

 フェーズドアレイシステムとは、複数のトランスデューサ(信号変換器)を空間的に配置して有効に活用する信号処理システムのことだ。各トランスデューサ信号の位相差を利用して、特定の方向に対するゲインを得やすくする。例えば、軍事レーダーや車載ミリ波レーダーなどに用いられている、トランスデューサとなるアンテナ素子を平面上に複数配置したフェーズドアレイレーダーは、機械的な機構を使わずに電子制御によって広範囲に物体を検知できる「電子走査」が可能なことを特徴としている。

左の図はフェーズドアレイシステムの使用例。軍事レーダーや車載ミリ波レーダーなどがある。右の図はフェーズドアレイシステムの概要である。(クリックで拡大) 出典:MathWorks Japan

 このフェーズドアレイシステムをモデル化し、解析するために用意されたのがPhased Array System Toolboxである。フェーズドアレイシステムの設計・解析、信号波形の設計・解析、送信/受信モデル、ターゲット/環境モデル、時間処理、空間処理、時空間適応処理を行うためのツール群とアルゴリズムから構成されている。

「R2013a」で追加された解析用GUI
「R2013a」で追加された解析用GUI(クリックで拡大) 出典:MathWorks Japan

 Phased Array System Toolboxは、2012年9月発表の「R2012b」で、車載ミリ波レーダーに用いられている、検知対象までの距離と相対速度の計測に適したFMCW(Frequency Modulated Continuous Waves)方式に対応する信号の生成と解析を行えるようになった。R2013aでは、偏波をサポートするとともに、使いやすい解析用GUI(Graphical User Interface)である「MATLAB Apps」として、「Radar Waveform Analyzer(レーダー波形解析)」、「Radar Equation Calculator(レーダー方程式)」、「Sensor Array Analyzer(センサーアレイ解析)」の3つを追加した。

RFシステムの回路エンベロープ解析を高速化

 車載ミリ波レーダーの設計を容易にするもう1つの機能は、RFシステムのシステムレベル設計とシミュレーション環境として用いられるSimulink向けのツール「SimRF」だ。

 SimRFは、2010年9月発表の「R2010b」で初めて導入された(関連記事:「MATLAB/Simulink」の新バージョン「R2010b」、信号処理/通信機能向けの機能を強化)。それ以前に用いられていた「RF Blockset」は、1つの周波数のRF信号だけを扱えるベースバンド等価の解析機能しか備えていなかったが、SimRFは、この機能に加えて、複数の周波数のRF信号を用いられる回路エンベロープ解析とハーモニックバランス解析の技術を取り入れ、詳細な解析を行えることを特徴としていた。

 R2013aでは、回路エンベロープ解析の初期化時間の短縮と高速化を図るとともに、設定ブロックを使った解析の自動化などによって利便性も向上させている。「車載ミリ波レーダーは、フェーズドアレイレーダーの信号の送信と受信を行うRFフロントエンド回路がある。SimRFには、高速に実行できるベースバンド等価解析があるので、回路構成の基本的な検討ができる。そして、一定レベル以上の詳細設計にも適用可能な回路エンベロープ解析についても、機能強化によって従来よりも高速になり、利便性も増した」(MathWorks Japan)という。

 この他、回路エンベロープ解析に用いる新たなコンポーネントとして、アンプやミキサーの非線形モデルやLCラダーブロック、ブロックノイズモデルなどを追加している。

左の図は、「SimRF」によるシミュレーションの速度とモデル詳細度のバランスを示している。右の図は、「Phased Array System Toolbox」と「SimRF」を活用して、デジタルビデオ放送の送受信システムを設計したデモの結果である。(クリックで拡大) 出典:MathWorks Japan

固定小数点への変換が容易に

 これら2つ以外の新機能としては、MATLAB/Simulinkの数値処理方式の基準となっている倍精度浮動小数点から固定小数点への変換を支援する「Fixed-Point Designer」が用意された。これは、MATLAB向けの「Fixed-Point Toolbox」とSimulink向けの「Simulink Fixed Point」を統合したツールで、固定小数点に変換する際の最適なビット幅などを知らせてくれるGUIベースのアドバイザ機能を利用できる。

 毎年春のバージョンアップと同時に発表される学生向けの「Student Version」の価格改定も行った。新価格は、従来の約半額となる9390円(税込み、大学生協組価)である。

 Simulink単体で組み込み開発ボードへのモデルの組み込み実装を行える「Run on target hardware」は、「Raspberry Pi」(関連記事:予約イッパイ、名刺サイズPC「Raspberry Pi(ラズベリーパイ)」の初回出荷開始)と「Gumstix Overo」を新たにサポートする。

 MATLABは、DigilentがAnalog DevicesやXilinxと共同開発したアナログ回路設計に用いる低価格のUSBデータ収録ユニット「Digilent Analog Discovery」や、Microsoftの「Kinect for Windows」と連携させられるようになった。

左の図には、「Run on target hardware」がサポートするハードウェアを示している。右の図は、「MATLAB」との連携が可能になった「Digilent Analog Discovery」と「Kinect for Windows」である。(クリックで拡大) 出典:MathWorks Japan

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