ヨックモックの缶ケースで学ぶ芸術的な「巻き締め」:甚さんの「バンバン板金設計でキャリアアップ」(10)(3/3 ページ)
金属製の灰皿やお菓子の缶など、身近な板金製品にプロテクニック「巻き締め」が使われている!
オメェなぁ、街の飲食店でだよぉ、食材を知らねぇオヤジがどこにいるんだぁ?
あのー……。
職人ってのはよぉ、学問じゃねぇんだぁ。スープを味わっただけで、ダシの成分を当てなきゃならねんだぁ。そんじゃ、ラーメン屋もそば屋もできやしねぇーじゃねぇかい? あん?
これじゃ、業務指名制の企業では相手にされませんね……。
オメェみてぇな日本人技術者に競争心はねぇのかよぉ?
ほら、また2人とも遊んでないで! この表を見てください(図3)。左側の灰皿はアルミ製で、多分A1050です。深絞りが得意らしいですね。そして、表面はアルマイト処理ね。右側が、ステンレス製なのは分かるんですが……。
エリカちゃん、このデータ、どうしたの!?
国木田さんが甚さんの材料選定のレクチャーを受けていると聞いてから、私も気になって、コツコツ勉強してきたんです。
さすが、専門学校卒! 実務の心得をしっかりマスターしているじゃねぇかい! 感心、感心!
右側のステンレス製の灰皿は、SUS304か、SUS430ですよね。SUS304の用途欄には、「灰皿」の文字がありますが、恐らくこれは……よく会社の応接室で見掛ける大きな灰皿ですね。
そうだな。ただし図2の灰皿は、きっとSUS430だな。
その根拠は、コスト係数です。材料費が、約33%削減できるからです。
エリカちゃんについては、何もいうことねぇ! 問題は、そこの手も足も出ねぇボンクラ院卒だ! どーした!? あーん?
キーッ! くやチーいっ!!
菓子の缶ケース
さて、次に行こう。次は、エリカちゃんが好きなヨックモック(YOKUMOKU)の菓子が入ってる缶ケースだ。図4の概観と、図5の示す巻き締めの加工法をよく見ろ。
きゃっ、すごい。これはもう芸術ですね〜!
中身が空(から)になれば、捨ててしまうんですよね。この缶ケースの展開図や展開寸法、そして、その加工法を知ったらもったいなくて、捨てられないですね。
技術系派遣社員は実力主義
オメェもこの先、設計者として生き延びるためにはどうしたらよいか、今から真剣に考えておく必要あるぜぃ!
最近、転職、転職言ってるみたいですけど、このままじゃあなたの方が会社から捨てられますよ。
あわ……、どうしよ……。
甘えないでください! 私たち技術系派遣社員は、国木田さんのようなヌルイ正社員よりずっと大変なんです!
エリカさまぁ……。
国内の企業では、多くの派遣社員が働いています。サービス業から工業界までさまざまな役割をこなしています。その中で、エリカちゃんのように設計に従事する技術系派遣社員は、当事務所の調査によれば「日本だけの形態」です。諸外国では見られません。
技術系派遣社員の世界は、大変厳しいのです。隣国巨大企業の設計者は、「年棒制の業務指名制」であることは、甚さんシリーズで何度かお伝えしてきました。日本の派遣社員は、年棒制でこそありませんが、業務指名制です。
当事務所のクライアント企業によると、以下が指名の条件とのことです。
- 3次元CADが3機種ぐらい操作できる
- 簡単なCAEを実行できる。簡単なレベルで可
- 設計書が書ける
- 設計審査を受検できる
- プレゼンテーションができる
以上の5項目です。少なくとも、3次元CADが操作できなければ、話にならない世界なのです。もちろんエリカちゃんは、全ての条件を満たしています。
僕も派遣社員になろうかしら。なんかカッコイイじゃない、「ドクターX」みたいで。
あなたには無理です!
◇
くっそぉー! 今回はエリカさまにやられっぱなしだったなぁ。くやしいですっ!
ホント、情けねぇヤツだなぁ、あん。次回は巻き返していけよ?
はい! そうだ、いよいよ「アルマイト処理」について詳しく教えてくれるんですよね。
ああ。それと、板金設計者には必須の「接地(グランド:GND)」技術に関して解説するぜぃ。
接地を知らなければ、「板金のプロ」は名乗れない時代になりました。では、また。
Profile
國井 良昌(くにい よしまさ)
技術士(機械部門:機械設計/設計工学)。日本技術士会 機械部会、埼玉県技術士。横浜国立大学 大学院工学研究院 非常勤講師。首都大学東京 大学院理工学研究科 非常勤講師。
1978年、横浜国立大学 工学部 機械工学科卒業。日立および、富士ゼロックスの高速レーザプリンタの設計に従事。富士ゼロックスでは、設計プロセス改革や設計審査長も務めた。1999年より、國井技術士設計事務所として、設計コンサルタント、セミナー講師、大学非常勤講師としても活躍中。「ついてきなぁ!加工知識と設計見積り力で『即戦力』」(日刊工業新聞社)と「ついてきなぁ! 『設計書ワザ』で勝負する技術者となれ!」(日刊工業新聞社)をはじめとする多数の書籍を執筆。
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