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はやぶさ2は小惑星までどうやって向かうのか? 〜ミッションシナリオ【前編】〜次なる挑戦、「はやぶさ2」プロジェクトを追う(6)(3/3 ページ)

これまで、小惑星探査機「はやぶさ2」に搭載される装置の役割や仕組みについて解説してきたが、今回は、プロジェクト全体の流れをあらためて整理したい。打ち上げから地球帰還までにこなさなければならないミッションシナリオとは?

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小惑星への滞在期間が長くなった理由

 1999JU3への到着は、前述の通り2018年6〜7月。離脱するのは2019年12月の予定で、小惑星に滞在するミッションフェーズ(先ほどの図中の緑色)の長さは、およそ1年半ということになる。

 津田氏によれば、軌道としては「もっと早く帰ろうと思えば帰れる」とのことだが、滞在期間を長く取っているのは、「初代はやぶさの目的は“工学実証”だったが、はやぶさ2では“サイエンス”がミッションの大きな目的。より確実に成果を得るために、十分余裕を持たせた結果だ」(同氏)という。


小惑星「1999JU3」へ到着した「はやぶさ2」の想像図
小惑星「1999JU3」へ到着した「はやぶさ2」の想像図。1999JU3の大きさや形状などは、まだ正確には分かっていない(©池下章裕)

 初代は、2005年9月にイトカワに到着。2007年6月に地球へ帰還するため、2005年の12月中には離脱しなければならず、わずか3カ月の猶予しかなかった。この間に、イトカワの科学観測を行い、2回のタッチダウンやその前のリハーサルなども実施しているので、かなりの過密スケジュールであったことが想像できる。

 津田氏もこの運用にスーパーバイザー(責任者)の1人として参加。「3カ月というのは本当に短く、着いたらすぐに帰るような感じだった。いろんなことに大忙しで、寝る時間もなかった」(同氏)と当時を振り返る。

 こうした“修羅場”を経験したことで、運用に「自信は付いた」(同氏)ものの、このような限界ギリギリの環境は決して理想的ではない。初代では、2回目のタッチダウンで「プロジェクタイル(弾丸)」が発射されなかったとみられているが、これももっと時間的な余裕があれば十分なチェックができて、プログラム中のミスを防げたかもしれない。

 そのため「はやぶさ2」では、「じっくりやれるような計画にしようとしている」(同氏)という。初代では、イトカワが予想外の形状であったため、当初考えていた自律降下の方法が使えず、現地に到着してから、新しい手法を開発したこともあった。時間的な余裕があれば、想定外の事態にも腰を据えて対応できる。

 また「はやぶさ2」には、インパクタという、初代にはなかった装置もある。一歩間違えれば探査機を全損する危険性もあり、この装置の使用時は特に慎重な運用が求められる。もし、初代にもインパクタがあったとしたら、「とても3カ月では無理だろう」と津田氏は答える。

 上記の他、実はもう1つ「“1年半”でないといけない理由」が存在する。それはイトカワでは問題なく、1999JU3ならではの問題といえるのだが……。その説明は、次回【後編】に託すことにしたい。 (次回に続く)

筆者紹介

大塚 実(おおつか みのる)

PC・ロボット・宇宙開発などを得意分野とするテクニカルライター。電力会社系システムエンジニアの後、編集者を経てフリーに。最近の主な仕事は「人工衛星の“なぜ”を科学する」(アーク出版)、「小惑星探査機「はやぶさ」の超技術」(講談社ブルーバックス)、「宇宙を開く 産業を拓く 日本の宇宙産業Vol.1」「宇宙をつかう くらしが変わる 日本の宇宙産業Vol.2」(日経BPマーケティング)など。宇宙作家クラブに所属。

Twitterアカウントは@ots_min


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