「職域を越え、ニーズと技術を結ぶ」――広い視野がモノづくりの新たな価値を創造する:本田雅一のエンベデッドコラム(18)(3/3 ページ)
新たな価値を生み出し、市場から高く評価される製品に共通することとは何か? 「マイクロ分光素子」を用いたパナソニックのイメージセンサー技術、デジタルシネマの世界に一石を投じたキヤノンの「CINEMA EOS SYSTEM」から、そのポイントを探る。
ニーズと技術をつなぐバリューチェーンの重要性
このコラムを読んで、パナソニックの新イメージセンサー技術やキヤノンのCINEMA EOS SYSTEMについて初めて知ったという読者もいることだろう。しかし、本稿の主題は別のところにある。これら一連の情報や取材を通じて感じるのは、“エンドユーザーのニーズ”と、製品開発を行っているメーカーあるいは部品供給者などが持つ“要素技術”とをつなぐ、一種のバリューチェーンの重要性だ。
「そんなことは常識だ」と言うのは簡単だが、ニーズと技術の間をきちんとつなぐ意識を持てている企業ばかりかというと、そこには疑問がある。
長期間、さまざまな企業を取材していると、自らの研究テーマへの誇りを感じさせる研究者と、エンドユーザーに製品を届ける製品開発、そもそもの商品コンセプトを練り上げる商品企画との間がうまくつながっていないケースも散見される。
パナソニックの新イメージセンサー技術に関しては、“イメージセンサーの高感度化”という比較的分かりやすい、共通認識を得やすいテーマを軸に、3つの技術がつながった。しかし、このような分かりやすい事例ばかりではない。多くは自らの職域しか見えず、技術のバリューチェーンはつながらないものだ。
顧客に近いところから、縁遠い領域まで、エンド・ツー・エンドで技術とマーケティングの両面を見渡せる“社内各部を結ぶリエゾン(橋渡し)”のような役割について、もっと深く考えなければならないのかもしれない。
筆者紹介
本田雅一(ほんだ まさかず)
1967年三重県生まれ。フリーランスジャーナリスト。パソコン、インターネットサービス、オーディオ&ビジュアル、各種家電製品から企業システムやビジネス動向まで、多方面にカバーする。テクノロジーを起点にした多様な切り口で、商品・サービスやビジネスのあり方に切り込んだコラムやレポート記事などを、アイティメディア、東洋経済新報社、日経新聞、日経BP、インプレス、アスキーメディアワークスなどの各種メディアに執筆。
Twitterアカウントは@rokuzouhonda
近著:「iCloudとクラウドメディアの夜明け」(ソフトバンク新書)
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