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コラム

超円高・デジタル化が生んだ“転機”、会津から世界を見据えるシグマのモノ作り本田雅一のエンベデッドコラム(9)(1/2 ページ)

2005年ごろ、一度シグマの会津工場を訪れたことがある。当時、会津を拠点にした“一極集中の垂直統合”という戦略を取るシグマの姿勢に、筆者はひどく驚かされた。――あれから6年が経過し、筆者は再びシグマの山木社長に話を伺う機会を得た。シグマがこれまで歩んできた道のり、そして、その根底にある思いとは?

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 今から6年ほど前のこと(2005年ごろ)。カメラ、交換レンズのメーカー、シグマの会津工場を、山木和人社長に案内されたことがある。この工場ではカメラも作っているが、主力は一眼レフカメラなどに向けた交換レンズで、工場のほとんどがレンズ生産のための設備だ。

 現在、シグマ製交換レンズは、全てここ会津工場で生産されている。その規模は敷地面積7万8000平方メートル、建坪3万5000平方メートルという広大さだ。従業員もトータルでかかわる人間はおよそ1500人もおり、ほぼフル稼働で生産する交換レンズ工場としては、世界で最も大きな規模を誇る。

――2005年当時、筆者にとって初めてのレンズ工場訪問ということで、何から何まで初体験の実に興味深い工場見学であった。何しろプラスチックペレットと硝材(ガラス材料)、塗料、電子部品などは外部から購入しているが、レンズ磨きの行程からプラスチック部品の成形、塗装、金型の削り出し、絞り羽根のパンチング、電子基板への部品実装やハーネス作成など、あらゆる行程に使う機械が動き続けているのだ。

 大口径望遠ズームレンズに使う鏡筒を作るための巨大なマシニングセンターがあるかと思えば、圧力変形による繊細な非球面レンズを成形している部屋があり、そうかと思えば広大な研磨機材の並ぶエリアでは大量のレンズが磨かれている。

 これには正直、驚いた。何しろ、本当に“一つの敷地内に全てが存在する”のだ。山木社長によると、一部は外部の協力会社に部品生産を委託しているものの、基本的には自分たちの工場だけでも材料以外の全てがそろうという。まさに、一極集中の垂直統合だ。

――あれから6年の歳月が経過し、筆者は再び山木社長に話を伺う機会を得た。

 シグマの会津工場は、今でも、必要に応じて工場設備の増設が続けられているという。高い信頼を得ているシグマの会津工場には、シグマ自身は決して語らないものの、海外ブランドを含む多くのメーカーが、高級レンズの設計と生産を委託している。

 今も変わらぬ“一極集中の垂直統合”。この時代と逆行するかのようなシグマの戦略だが、山木社長は「会津工場こそが、われわれの強みを象徴しています」と力強く語る。

シグマの会津工場
シグマの会津工場

円高を契機に高級路線に転換

 「シグマのレンズ」というと40歳以上のカメラ好きには、あまり良い印象はないかもしれない。しかし、シグマ製の交換レンズに対する評価は今と昔とでは全く違う。世界的にもシグマのレンズは認められてきているが、特に最近になって一眼レフカメラ市場が花開いた新興国では、シグマ製レンズは常に純正品と同列の高品位なレンズとして比較の対象となっている。

 銀塩一眼レフカメラの時代は、カメラ量販店で大手メーカーのボディと組み合わせて使う、いわゆる“キットレンズ”が事業の主力だった。求められるのは画質、品質より何より、第一にコスト、第二もコスト、第三にもやはりコストだった。

 シグマは同業他社のタムロンなどとは異なり、業務用カメラのレンズなどを持たない。カメラとカメラ用交換レンズのみのメーカーである。そこで働く人間はカメラ好き、レンズ好きばかりだ。何よりも高画質なレンズを自分たちが作りたい。もちろん、カメラボディのメーカーでも一流になりたい。常に研究開発に投資をしながら、カメラメーカーへの脱皮や、より良い・楽しめるレンズへの欲求を隠さないシグマは、企業としては異質な存在といえるかもしれない。

 そんなシグマがコストを可能な限り切り下げた低価格なキットレンズから、高品質、高画質指向のレンズへと軸足を移していくきっかけとなったのは、1995年の阪神大震災だった。この影響で超円高へと為替が振れ、会津工場で100%全製品を生産しているシグマは、低価格のキットレンズでは利益を得づらくなっていた。

 「90年代の円高で、他のレンズメーカーは海外生産へと軸足を移していきました。また、カメラメーカーも、純正で用意した“レンズキット”を販売の主力としはじめたので、安かろう、悪かろうのキット専用レンズでは事業が成り立たなくなりました。画質を向上させるためにレンズ構成、コーティング、硝材、メカ構造などにコストを掛けた、EXラインというシリーズを作り始めました。これが1995年のことです」(山木氏)。

シグマの山木和人社長
シグマの山木和人社長

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