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デジタル家電の終焉、そしてスマートデバイスの時代へ――CESの変化から見る新しいモノづくりの形本田雅一のエンベデッドコラム(17)(2/2 ページ)

電機産業・家電業界に精通し、数多くの取材を重ねてきたジャーナリスト 本田雅一氏による“モノづくりコラム”。ラスベガスで開催された米国最大規模の家電イベント「2013 International CES」の取材を終え、本田氏があらためて感じた変化とは? “新しいモノづくりの形”について模索する。

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モノづくり・価値づくりとは何か? を求めて原点回帰へ

 “終焉”を迎えようとしている「デジタル家電の時代」を振り返ってみると、“技術をビジネス的な価値に変えるメソッドが大きく変わりつつある”ことをあらためて認識する。

 ホームエンターテインメントのデジタル化ブームが起こる前、製造業はアセンブル業だった。より効率良く、より小さく、より複雑な構造でも……と、アセンブルでの差異化が重要とされてきた。さらに、アナログ時代であれば、部品そのものの品質も製品の魅力に直結していたため、単純に規模を追い求めて効率化するだけでは競争力が得られなかった。故に、人に投資し、工場を守り・育てる手法が定着したともいえるかもしれない。

 しかし、デジタル家電の時代は、人よりも設備に投資する時代だったといえる。アセンブルではなくプロセス。プロセスによる生産を効率化するため、いかに大きな規模で生産するか。その規模を争うようになると、これまでメーカーが人に投資し、差異化を図ってきた領域が小さくなり、結果、相対的にメーカー間の力の差が狭まる(あるいは力関係が逆転する)。

 さらに、スマートフォン/タブレット端末の時代になってくると、パソコンほどではないとはいえ、水平分業が進み、最終製品のメーカーが手を出せない(他社からの購入に頼る)部分に訴求点が集中するようになる。

Xperia Z
ソニーモバイルコミュニケーションズの新スマートフォン「Xperia Z」。日本ではNTTドコモの2013春モデル「Xperia Z SO-02E」として発売される

 筆者は、CESで新製品のスマートフォン「Xperia Z」を発表したソニーモバイルコミュニケーションズのUX商品企画部 バイスプレジデント 黒住吉郎氏に「ここまで頑張ってハードウェアの差異化に投資しても、スマートフォンの構造はシンプル。近い将来、ハードウェアによる差異化は難しくなるのでは」と質問を投げかけた。

 すると、黒住氏は同様の議論が社内にあることを認めた上で、「例えば、中国のOPPO社(同一ブランドで米兄弟会社からBlu-rayプレーヤーなども発売されている)などは、たった3人で始めた小さなベンチャー企業だが、彼らがデザインするハードウェアは素晴らしい。確かに、現状では品質面で不安もあるかもしれないが、純粋に消費者として欲しくなる商品だと思う。ああいったものが小さな会社から出てきていることを考えると、たった1人の優れたデザイナーが、大企業が作るスマートフォンを越えられるという時代になるだろう」と話した。

 そして、「だからこそ、今から継続して、他にはできない商品を作る方法について模索し、差異化できる要素を積み重ねていくべきだ」(黒住氏)と、その考えを示した。その先にあるのは、「総合メーカーの強みを生かすこと」だという。

 日本の家電メーカーは、ソニーのようにデジタルエンターテインメントに偏っているように見える企業でも、実際には幅広い事業分野を持っている。その事業の幅の広さは歴史の長さ・(いろいろな意味での)重さでもある。それら多様な分野におけるノウハウや技術力を生かして、あらゆる分野のアプリケーションが集中するクラウド/スマートフォンに展開していけば、他とはひと味違う製品になる、という考えのようだ。

 これはソニー社長の平井一夫氏が掲げる「ワン・ソニー」という掛け声にも近い。

 前時代的なアセンブルによるモノづくりから、ソフトウェアとネットワークサービスを組み合わせ、ハードウェアという窓を通して価値を提供する「価値づくり」への転換を、やっと企業全体として意識するようになったのかもしれない。

 一方、パナソニックについては、本連載で何度となく取り上げてきた。同社社長である津賀一宏氏のCESでの基調講演について、ここでは取り上げないが、今、パナソニックの中で使われ始めている言葉があるという。それは「クラウド製造業」というものだ。

 それは、「モノをつくる」という言葉に捉われるのではなく、また自社で部品を作ることでもなく、自社で組み立てることにも固執しない。エンドユーザーにとっての価値とは何かを考え直し、事業の形を作り直すといった意味だという。

 ただし、クラウド製造業というコンセプトは、その名前の通りに雲をつかむような話で、具体的にどのような事業へと発展していくか、といったところまでは練り込まれていない。まずは、B2B事業に力を入れることで収益性を高める(パナソニックはAVC社の事業を除くと、全分野で営業利益率10%以上を確保しているとか)ことから事業の立て直しを図るが、その先にあるのは“モノづくり”そのものの価値観を変え、新たな事業の形を作ることにある。


筆者紹介

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本田雅一(ほんだ まさかず)

1967年三重県生まれ。フリーランスジャーナリスト。パソコン、インターネットサービス、オーディオ&ビジュアル、各種家電製品から企業システムやビジネス動向まで、多方面にカバーする。テクノロジーを起点にした多様な切り口で、商品・サービスやビジネスのあり方に切り込んだコラムやレポート記事などを、アイティメディア、東洋経済新報社、日経新聞、日経BP、インプレス、アスキーメディアワークスなどの各種メディアに執筆。

Twitterアカウントは@rokuzouhonda

        近著:「iCloudとクラウドメディアの夜明け」(ソフトバンク新書)


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